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大ヒット漫画を支える編集者・佐渡島庸平に聞く「プロとアマの境界線」

東京編集キュレーターズ第4回のゲストは、ドラゴン桜、宇宙兄弟、GIANT KILLINGなどを担当してきた編集者・佐渡島庸平氏。2012年に講談社を退社し、作家のエージェント会社、コルクを設立。漫画編集の裏話やプロとアマの境界線はどこにあるのか、などみっちりお話を伺いました。

更新日: 2013年05月28日

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2002年に講談社に入社し、週刊モーニング編集部に所属。『バガボンド』(井上雄彦)、『ドラゴン桜』(三田紀房)、『働きマン』(安野モヨコ)、『宇宙兄弟』(小山宙哉)、『モダンタイムス』(伊坂幸太郎)、『16歳の教科書』などの編集を担当する。2012年に講談社を退社し、作家のエージェント会社、コルクを設立。


LINE株式会社の田端信太郎を聞き役に、漫画編集について、プロとアマの境界線について探りました。

田端:この「東京編集キュレーターズ」というイベントは一応これまで4回、ウェブなども含め広く捉えた「編集」が少しでも良くなるといいなということでやってきました。

今日こちらにいらっしゃった皆さんは、ほとんどの方が何らかの形ですでにメディアに関わっていらっしゃる。そこに第一線で活躍されている編集者の方をお迎えし、想いやパッション、スキルなど、いろいろとお話できればと思います。よろしくお願いいたします。ゲストは佐渡島さんでいらっしゃいます。ご存じとは思いますがこちらに関わってきた仕事やタイトルを。累計すると一億部を越えていますよね?

佐渡島:いや、そこまでは。バガボンドは途中から加わったので、自分がやったというのはおこがましいです。どれくらいだろうな。2000万部くらいじゃないかな。1億部超えている編集者は世の中になかなかないですよ。

田端:全部足したらどうです?

佐渡島:バガボンドだけで3000万部もあるので、それを足してやっと合計5000万部くらいじゃないかな。

田端:やはり、すごいヒットメーカーでいらっしゃるというのは説明不要かと思います。その佐渡島さんとお話しします。本題に入ると、イベントタイトルとして「うまい編集って何だ?」というお話です。

(会場のお客さんに向かって)皆さん自分が編集者という方はどれくらい?自称でも構いません、お前は編集者じゃない!とか言わないので(笑)。手を挙げてください。3分の2くらいですね。じゃあ今日は上手い編集についてお話が聞けるんじゃないかということでいらっしゃっている。

あとはプロとアマの境界というサブタイトルがついています。プロという自覚がある方。アマだと思う方。佐渡島さんと事前にお話しして、佐渡島さんの自己規定としては編集者ですよね?

佐渡島:そうですね。編集者という肩書きを自分でも言って10年間生きてきました。クリエーターのエージェントと言うと、何か気恥ずかしいんですが。そもそも講談社を辞めてこういうことをやろうと思った理由の一つに、編集者という仕事を再定義したいというのがあります。現在の編集者の定義が、出版社の中で曖昧になりすぎている。

それはどういうことか? 出版社の経営が安定していた時は、編集者は作家から原稿を取ってきて紙面を埋める人。それが編集者の仕事でした。

田端:ほぼサラリーマン編集者というか。

佐渡島:作家から原稿を取ってくる。できれば良い原稿を取ってくる。それが編集者の定義だったと思います。そもそも編集者って2種類あるんです。

同じ編集者という言葉を使うけど、仕事の内容はまったく違う。雑誌編集者と作家付きの編集者の2種類です。雑誌編集者というのは編集者が主体。彼らがリーダーとなって企画を立てて、どのカメラマンにするか、どの女優、モデルにするか、どんなデザインにするのか全部決めています。

佐渡島:僕がやっていたのは、作家付きの編集者。作家を盛り上げるのが、僕らの仕事です。僕が編集者というと、この作家付きの編集者をさしています。

ネット上で作家が不満を言ったりするのをみかけますが(苦笑)、なんで出版社の給料が高いのか?

起業する時に、そういうそもそものことも、考えたりしました。僕が講談社に入った時、10年前どういう状況だったか。利益のほとんどが雑誌で出ていました。編集者が生み出した雑誌、そこに広告を入れることで利益が出ていた。利益は、雑誌の編集者が生み出し、作家付きの編集者は、それほど利益を生み出していませんでした。雑誌で得た利益を作家に還元しながら文化として出版をしているという状況がずっとありました。

田端:漫画はどうでした?

佐渡島:漫画は利益を生み出せる状況だったのに、すごく利益が出ているわけではないんです。みんな安い方が買ってくれるからいいよねって、安く値付けしていた。でも、雑誌が売れなくなって、漫画しか利益をださなくなってきて、急に漫画の利益に頼る構造に会社が変わったんです。

田端:雑誌が儲からなくなった。直接の原因でないにしてもネットの影響があったり。

佐渡島:そうですね。女性誌、情報雑誌が売れなくなったのは、ネットの影響は大きいですよね。雑誌がまったく儲からなくなった。だから漫画でしっかりとした利益を出さないといけなくなった。それまでは、漫画が多くの人に読まれることを優先して、安めの定価設定でした。

会社に入った頃は、定価は感覚で決められていましたが、最近は、重版のしやすさまで考慮しながら、定価を決めるようになりました。当たり前と言えば当たり前の行為ですが、雑誌がすごく儲かっていたので、当たり前のことがおろそかになっていたのです。

僕が講談社に入った時はもう退社されて、独立していた樹林伸さん(キバヤシ)が編集者として有名でした。伝説の編集者と言っていいと思います。同世代なら、MMRの樹林さんというとピンとくるかもしれません。金田一の少年、シュート、GTO、サイコメトラーEIJI、神の雫、全部に関わっています。たくさんありすぎて、「えっ!本当に」みたいな量を作っていて、ちょっとすごすぎる人です。

佐渡島:樹林さんは、編集だけでなく、原作を書いて、という感じの働きかただったようです。実際、独立して、原作者になりました。

田端:そうなると、さっきの雑誌の編集者に近い感じですか?

佐渡島:そうですね。作家をサポートするよりも、自分が主体となる感じですね。小学館には長崎尚志さんというすごい編集者がいました。長崎さんも、今は、独立して原作者をされています。

佐渡島:僕が会社に入ったとき、みんなの理想の編集者として、樹林さんと長崎さんがいました。でも、僕は、本当にそうなんだろうかって、疑問に思ったんです。2人は原作者としては最高に素晴らしいと思います。でも僕は編集者とは違う気がしたんです。実際、独立した後の二人の肩書きは、編集者ではなく、原作者ですしね。

僕は会社に入って良い編集者になりたいと思って仕事をしていました。理想の人を探していました。「ドラゴン桜」の時は自分の勉強法を作中に入れたり、三田さんに一生懸命ストーリーの提案をしたりしていました。樹林さんみたいになろうと思って頑張っていたんですね。

田端:ちなみに佐渡島さんも東大の御出身ですよね

佐渡島:ええ、そうです。でも、なんかしっくり来ませんでした。やっぱり僕は作家ではないし、原作者でもない。僕は編集者なんです。作家の人が主体で、それをサポートするのが編集者の仕事だ。樹林さんを理想にするのは、僕には向かないと考えたのです。

じゃあ作家をサポートするというのは、どういうことだろう。サポートすることに、ストーリー作りの手伝いももちろん入ります。だから、ドラゴン桜の時のように、資料集めもします。締め切りを守ってもらうのも、重要な仕事。他にも、売るための戦略を立てて、宣伝をして、ライツの運用もして。

佐渡島:作家のことを最もよく知っている編集者が、そこまで全部して初めてサポートしてるって言えると考えたんです。

だから僕は編集者というのは、作家から原稿をもらってきて雑誌に載せるというところから、作家をサポートしてその作品を売り、広めるというところまでが仕事じゃないかなと考えるようになりました。

後輩編集者の力も借りながらですが、僕はそれを全部やろうとしました。でも、僕がそれを全部こなすというのは、長時間労働を僕が厭わないからできることだとも思います。これを会社組織でやるには無理がある。

そう考えた時に、「分ける」べきじゃないかなと思った。でも、今の出版社の作業の分け方のママだとうまくいかない。エージェントが、作家と一緒に作品を作って、その作品のライツの運用をする。一方で、出版社の編集者が、原稿を入稿して、雑誌に載せて、さらにそれを単行本にし、本のプロモーションに責任を持つ。という役割分担。

そういう風に、編集者とエージェント、両方いた方が、仕事がスムーズになるんじゃないかと思った。出版社の中で、作家に紐付く部署(エージェント部)と雑誌に紐付く部署(現状のモーニングのような部署)と両方ができて、講談社のエージェント部に所属しながらも、講談社以外の雑誌に書く可能性もありますよってなればいいと考えたんです。

それで、講談社で社内ベンチャーを作ろうとしました。実際に社長も賛同してくれて、やろうかと思ったのですが、次の株主総会を通してその後じゃないとできないとのこと。

佐渡島:9ヵ月から10ヵ月は待たないといけない。「なんでそんなに時間がかかるの?」と思った。僕が講談社にとって良いと思う提案をしていて、社長もそれが良いと思っている。

なのに変えられないというのは、これからの時代に対応できるんだろうか? そういうスピード感の会社で、社内ベンチャーを作っていいのだろうかと、悩みました。やっぱりスピード感が一番大切だ! そう思って、自分で起業することにしたんです。

田端:Kindleが出てきたり、デジタルになったりして何が本質的に変わったかと言えば、作家自身が読者とダイレクトな関係を持てるということだと思います。これは、漫画だけでなく、文芸でもそうでしょう。村上春樹の新しい作品も出ましたが、あのクラスだと作家に客がついていて、文藝春秋から出ていますが、出版社なんて文藝春秋じゃなくてもどこでもいいわけです。どこでも売れるから。

佐渡島さんが付き合ってきた方というのは漫画界で言うと、村上春樹クラスの方々ばかりで、その中であえて、エージェントがサポートしてあげないといけないのか。いらなくないですか?ということに対して、自分の存在証明を常にしていく必要がある。

きつい言い方かもしれませんが、佐渡島さんは元々そうやってお付き合いがあったから、講談社の時の信頼関係を持ったまま独立できた。もちろん、これはフェアなことですよ。でも、じゃあ俺も第二、第三のコルクみたいなことをやろうと思っても、全くこれまでに業界に関係ない人が作家のエージェント、スタートアップベンチャーをやりますと言っても、作家さんに「あんた誰?」と言われる。話にならない。ご自身の延長と違う、もう少し普遍的な次元を含めて、作家のエージェント、プロモーターがなぜ必要なのかを教えてください

佐渡島:プロモーションをしていくということが、編集者の仕事としてすごく重要です。世の中に商品を出す時に、前パブをしないで商品を出すということはありえない。宣伝して認知度が上がったところに商品を出して、買ってもらうという仕組みが多い。

村上春樹さんの場合、新作が出るという情報はすぐにリーチされますから宣伝費をそんなに使う必要はない。でも村上さんも発売前から宣伝していますよね? 発売前1カ月くらいから宣伝していました。宣伝って基本的に発売前にやるもんなんですよ。

で、出版社がどうなっているかというと、発売して当たったものだけ宣伝しているんです。僕はものの売り方として、それは間違っていると思っています。昔は雑誌が多くの人に読まれていました。ジャンプが話題になればそれが前パブになって、単行本が売れていました。

ですが、雑誌が前パブ機能を果たさなくなった。雑誌の編集者が単行本を作る時に、実は無意識に前パブをやっていたんです。それが無くなっちゃったから、しっかり意識して前パブをしないといけない。

これからどんどんデジタルで売れるようになると言った時に、たとえばiBooksで売っても本が見つからない。Kindleだって、そもそも誰にも知られていない人が本を出したとして、著書名で検索してもらえる可能性はゼロですよね。

自分のサイトがあったとしても、自分のサイトまでたどり着いてもらう可能性もゼロ。さらに作品を書いて、ネット上でバズらせるところまで作家が自分でやらないといけないのか?TwitterもFacebookもやって、作品の宣伝に時間を費やさないといけないのか?

それは無理なんです。なのでネットで作品を出す時には、バズらせる人間というのが絶対的に必要なんです。21世紀に編集者が必要なのか?という時に、編集者はもしかしたら必要じゃないかもしれない。

佐渡島:でもプロモーションをする人間は絶対的に必要である。それで僕のエージェントというのはプロモーションする人間である。それが一番の価値です。だから作家は、エージェントが必要だと思っています。

ただ、同時にやっぱりプロモーションだけでなく、作品に意見をする人を、どれだけ一流の作家でも必要だと僕は思っています。

佐渡島:これは、僕が編集者として、10年仕事してきて、そこに自負があるからです。たとえば無茶苦茶カッコいい男の人、綺麗な女の人に鏡は必要ないか?(苦笑)そういう問いかけに変えてみてください。

田端:もはや自己をどう認識するか?という哲学の領域ですね(笑)

佐渡島:無茶苦茶カッコいい人間でも、朝起きて風呂入って出かける前に鏡を一回は見たいと思うんです。もしかしたら鼻毛出ているかもしれないし。もしかしたら服が汚れているかもしれない。いろいろなことがあるかもしれない。

それと一緒でとてつもない才能があるクリエーターでも、この作品がどういう感じか?世に出す前に一回は鏡に照らし合わせたい。その鏡としてどれだけ正しく映しだしてくれる人かどうか?

それが編集者には求められています。僕は作家から作品が上がってきた時に、大直したりはしないです。直すのではなく、その作品の面白さを正確に表現しようと努力します。作品を読んだと時の自分の感情を、わかりやすく説明できるところに、僕は自分の価値があると思っています。

田端:そこで鏡になるということと、キバヤシさんのように原作者的に振る舞う編集者とは、良い悪いは別として、違うんじゃないか。原作者風に振る舞うというのは、さっき佐渡島さんがおっしゃったように、主体性を持ってしまっている。

だから鏡になれない。先ほどの主体性という話と、鏡の話は表裏一体の話をされている。そういう解釈でよろしいですか?

佐渡島:はい、いいです。僕は実はあまり主体性が無いんです(笑)。僕が担当している作品って、僕の好みは表れているんです。僕の好きな作家の人が描いてくれているので。でも作品自体に僕らしさはないです。僕がしていることって、作家の人が鏡に映った時に、もっとこうしたらあなたはかっこよくなりますよと、気づかせてよりかっこよくする、それくらいのことだけなんです。

僕の感想が、どんなのかもう少し具体的に説明してみようと思います。

編集者という仕事を何年かしていると、本を読んでいきながら、ここは作家の人が悩んだだろうなあ、悩んだ結果こっちを選んだのだろうなというのが、なんとなくわかってくる。それで、素直に、ここのフレーズがすごくよかったですって伝える感じの感想です。そうすると「そこは最後まで残すかどうか迷ったんだけど、やっぱり残してよかったです」という話を作家の人から聞くことができる。作品の中でも努力の濃淡に対して、感想を言っているんです。基本的に濃いところに言います。

田端:やはり、私は鏡という発言がすごく面白いと思いました。広告だと例えばP&Gの場合、CMを作ろうとするじゃないですか。放送する前にモニターを100人集めて、どのCMが良いか聞くそうなんです。ダミーの番組まで作って、どのCMかを言わずに番組の間に流して、ビフォア・アフターでどれが印象に残ったか。それを沢山のモニターに聞く。そうやって、A/Bテストというか、複数パターンあるCMの出来をチェックしたりする。要は鏡として一人の人間として佐渡島さんがやりきるんじゃなくて、マクロミルみたいな意味で、定量的なリサーチをいつも、かけている。

で、ネットとかデジタルの領域では、サンプル数500で好感度がどうでした〜とかいうパターンに流れがちなんですが。佐渡島さんは鏡として、ある程度、女の子の顔を正確に映しならも、この女の子って顔のこの部分に、今ここにコンプレックスがあって、ここを直そうと頑張ってメイクしたんだから、ちょっとシミを目立たないように映してしてあげようとか。そういったところを生身の人間として引き受けている。

佐渡島:まったくそういう感じですね。作家の人に対して、いろんな状況があるわけですよね。新人の作家に井上雄彦とか安野モヨコみたいに鏡に写っていないからとダメだと言っても、それは無理なわけです。自分のできる範囲の、一番の改善が出せるように手伝おうと思っています。

田端:小山さんとかって売れる前から、必ず売れるはずだと佐渡島さんが確信していた。そういう話がありますよね。鏡の話で言うと、映してその通り書いた、だけど受けねえじゃんみたいな。それが万一あったとしたら、鏡を割られたりするとか(笑)そうやってお互いの信頼関係にヒビが入ったりする。

佐渡島:作家と編集者の関係にヒビが入ることもやはり、時にはあると思います。小山さんの場合はデザイナーを京都でやっていて、絶対に漫画家としてやっていけるから上京したほうがいいと、アドバイスをしました。

もちろん小山さんが、自分で望んでいて、自分で決心して上京してきたんですが、僕はその後押しをするように、「絶対なれる、売れる」と言った。東京に来た時、一緒に家を探したりしました。それで、この家から、もっと立派なすごい家に小山さんが住むようにしたい!って思いながら仕事をしていました。芸能人のスカウトと似ているかもしれません。

パッと見てこの新人はイケると思ったとする。

佐渡島:なんでいけるか。まずは僕がこんなに惚れ込んでいるからだ。ということなんです。それだけで十分で、あまり深い理由を、作家の才能の中に探そうとはしません。本の市場って非常に小さい市場です。作家が食っていくには10万部くらいでも十分なんです。

100万部を目指すと言っても人口からするとすごく少ない。100万部なんて100人に1人です。100人に1人がすごく面白いというのは、学年に1人だけ面白いと思うやつを見つければいい。流石に僕と同じ感覚の人を、1学年に1人くらいは見つけられるだろうと。もし1000人に1人であれば1つの学校に1人を探しにいく。それくらいなら、惚れ込んだという理由だけで十分できる気が僕はするんですね。僕が特別ってことではないのです。僕でなくても、一人の人間が、本気で惚れ込めるというだけで、十分作家としてやっていける可能性があると思います。

だから小山さんに全力で作品を書いてもらったら、その後は僕が売ればいい。さっき編集者はプロモーターであるというのは、作家さんの才能を全面的に信じている。その上で後が重要なんだという思いがあるからです。

才能があっても、無茶苦茶ダサい服を着ていれば、すごく可愛い人でも台無しになる。それと一緒で才能がある作家でも、最高の作品かどうかはわからない。僕が最高の作品だと感じないと、一生懸命売れない。最高の作品だと感じない時は、「僕には面白さが感じられていないですよ」と僕の感想を伝えます。直しをお願いする時は、僕の気持ちだけでなく、他の人にはこう読めるんじゃないか、など客観的な説明をするようにします。その方が、作家も耳を傾けやすいですからね。

田端:今のお話だと、エージェントとして独立された場合、作家は選べるじゃないですか。ところが講談社という体制の中でサラリーマンとしてやっていた。佐渡島さんの場合ラッキーなことに付いた作家が皆さん尊敬できる、信頼できる方だった。一般論として、こいつは鏡としても映しようがない。正直、箸にも棒にもかからない、そういう出会いもあり得る?

佐渡島:そうですね。鏡に映す価値がないということは、あまりなくて、鏡との相性が悪いということは起きると思います。それはすごく才能にもったいないことをしていると僕は思う。漫画家は編集者を選べない。

田端:両方そうなんですか? 人事をやるのがマンガ誌の編集長?

佐渡島 そうです。編集長が担当を決めます。漫画家も編集者も両方の気持ちが関係なくコンビを組むのは、あまりよくないことだと思います。他のマッチングを見ていて、あの漫画家、僕がやったら売れるのになあと思ったりした。逆に、僕が担当したら、絶対売ることができなかった、あの人が担当だから売れたんだよなぁ、と感じることも、もちろんあります。

佐渡島:講談社に入ってすぐに気づいたのは、この会社は仕事さえしていれば自由だ(笑)。何をやっても文句を言われない。

だからドラゴン桜を面白い!と思いながら担当していて、これを売ることができれば、自分は会社で自由になれると気づいた。三田さんを有名にしたい、ドラゴン桜を多くの人に読んで欲しいという気持ちの他に、これが売れれば僕は社内で自由になれる、というのも大きなモチベーションになりました。企画を自分で生み出して、どんどん忙しくなると、自分で立ち上げた企画以外はやらされなくなるんです。仕事を振られることはなくなる。僕は一年目にドラゴン桜を立ち上げることができたから、その後全部僕が好きな作家にアプローチできるようになった。

田端:好循環ですね

佐渡島:はい。

田端:今の話に絡めると皆さんも気になることがあるかと思います。コンテンツ業界で切っても切れないのが数字ですね。自由になるということは売上がある。部数が出る。デジタルでもページビューがどうだとかある。ウェブのアプリだとインストール数がどうだとか。そういう話があると思います。

売れることと良い質、良い物、良い文章。それは違うという話がよく出る論点です。佐渡島さんからご覧になって、良い漫画と売れる漫画は重なる?

佐渡島:重なります。

田端:良いけど売れないとか、読者に迎合しているとか、アイツは売れ筋に迎合しやがって・・・とか言っているのは負け犬の遠吠えですか?

良い作品は、確実に売れる

佐渡島:もちろん売れているんだけど、そこまで良くない作品はあると思います。でも、やっぱり売れているものには売れる理由がある。僕は読むたびに、どんな作品もなるほどと思う。すごい作品だなと全部思いますね。僕の好みかどうかは別として。

理由なく売れているものは、ほぼ無いと思います。良い作品なんだけど売れていないというのはあり得る。それはプロモーションされていないなという、出版社側や編集者の問題だと感じます。

佐渡島:良い作品はプロモーションをしっかりすれば確実に売れる。だから作家には安心して良い作品を作ってもらえばいい。迎合する必要は一切ない。というのが、僕のスタンスです。

会社に入った時に、会社に入って1年目に何を見るかがすごく重要だと思うんです。

鳥が初めて見たものを親だと思うのと一緒で、僕は1年目に井上さんと安野さんから勉強させてもらって、基礎ができた。井上さんたちから何を学んだかというと、井上さんや安野さんは、いきなり話題になる突飛なストーリーを思いつく感じではない。

初めに思いついたものは、「どちらかというと良いもの」なんです。良い作品、良品という感じ。それを多くの人にわかってもらうにはどうすればよいか? 噛み砕いて噛み砕いて、わかりやすくして、面白くする。

そういう作業をしていく。売れている作家は締切ギリギリまで粘っている、思いつくのを待っているのではない。書くことは思いついている。思いついているんだけど、その書くことを多くの人に伝わる形態にして面白くする。それにはどうすればいいだろうか?というところで悩んでいます。そこに時間が掛かるから締切ギリギリまでいく。

田端:書くモチーフというか、何を書くかという意味での、Whatはとっくに思い付いているのだけど、どう伝えるのか?

Howの部分で、いつもギリギリまで精度を高めて、読者へのスムーズに伝わるようにを工夫している、ということでしょうか。そこにはキリがないですからね。

佐渡島:世の中の良い作品だけど売れていないよねという、愚痴をよく耳にします(苦笑)売れてない良い作品は、作者も編集者もかなり早い段階でHowを諦めた作品でしかない、と僕は思います。かなり早い段階で諦めて、OKを出しちゃっている。なので売れなくても編集者は悔しくて、愚痴を言う。

田端:Howを磨いて誰でもわかりやすくなっているものに、逆に「あれは、大衆受けを狙っている」とポケットに手を突っ込みながらバカにするような人がいる。実はその作品が書こうとしているモチーフの普遍性、深みというのは何ら劣るわけでもないし、トレードオフで何かを犠牲にしたわけでもない、というのは確かに多そうです。

佐渡島:「俺、読めているぜ」みたいなサブカルだけが好きな人は、そういう良く売れている作品の中に埋め込まれた深いテーマが、読み込めていないと、ネット上の感想を読んだ時に感じます。

田端:せっかくなのでここからインタラクティブにいきたいと思います。作家と編集者の関係にはベタなものもいっぱいあります。作家さんの犬の散歩を代わりにやったりとか、奥さんの話し相手をしたりとか。皆さんに聞きます。作家と編集者って、同じ信頼関係や良い物を作るには近ければ近いほどいいと思います?手を挙げてください。近い方がいいと思う方。Yes/Noで。

近い方が多いですね。

佐渡島:なんで近くない方がよいと思うのか逆に聞いてみたいです。

田端:「なあなあ」になっちゃうからですかね? せっかくなので聞いてみましょう。

参加者:別の視点を入れた方がいいので、距離があまり近過ぎない方が良いと思いました。

佐渡島:何を持って近いとするかなのですが、コルクの事務所には今漫画家が1人います。ずっとそこで漫画のネームを書いて、僕が打ち合わせの隙間に読んでというのを延々と繰り返しています。

漫画がヒットしやすくて、小説がヒットしにくい理由とは?

田端:それは新人の方?

佐渡島:はい、そうです。僕が期待している新人というのはそういう密接な形で、作業を進めています。僕は作家と編集者の距離は近い方がいいと思っています。モノを作る時ってコミュニケーションをかなり密にとっていかないと、直しができないなと。何度も直しをするのは、ストレスのかかることですから、信頼感が重要です。

漫画がヒットしやすくて、小説がヒットしにくくなっているのがなぜかというと、漫画って20ページという細かい断片ごとに作家と編集者が打ち合わせをします。違和感を覚えるたびにちょっとずつ直しの打ち合わせができる。

400ページの原稿がどかんと小説家から送られてきた時に、結局人間関係と集中力の問題で一度の打ち合わせで言える直しの数って限られています。長い原稿でも短い原稿でも一緒です。

長い原稿で400ページだから、たくさん付箋を付けて長時間かけて言おう、とはなかなかならないんです。やっと一度、書き終わって、解放感がある時に、そんなことをされたら作家はテンションがさがってしまいます。20ページの原稿だと、そういうことにはなりにくい。作品を作るためには、やはりコミュニケーションが密に取れたほうがよい。

僕と作家の関係は、かなりビジネスライクです。なあなあでは、全くありません。作家との関係性という意味では、近いんだけれど、ビジネス以外の部分では近くない。皆さんが作家と編集者の距離が近いことを、「良くない」と思う理由って、「なあなあ」になって意見を言わなくなるから、ということですよね。僕は作家のビジネスのパートナーであって、プライベートのパートナーではないのです。

深く話し合うためには近くないといけない。僕がさっき言った家を探したのとかも、編集者の仕事だと思っている。作家が作品に集中するためのことはすべてやるべきじゃないかと思う。

佐渡島:付き合いかたは、作家のタイプにもよることが多いです。さっきのシャンプーの広告の時の話で、サンプリングの例がありました。ミステリー作家とか純粋なエンタメ作家であれば、密な編集者の感想ではなく、そういうふうにたくさんの人に見せて反応が良かったやつを出そうとのもありえるかもしれません。そういうシステムでも、作品を描くことができる人もいるはずです。

実際、「夢をかなえるゾウ」の水野敬也さんって、何十人にも読ませて、どれで行くかを決めたりしています。そういうタイプの作家と、私小説ではなくても、自分のすべてをさらけ出しながら、自分の心に問いかけながら書いていくタイプの作家もいます。

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