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村上春樹さんの比喩好きの声

村上春樹さんってなんて複雑な事柄をあんなに比喩的に綺麗に表現出来るんだろう。人間のお父さんみたいな温かさを感じてしまう

村上春樹は何がうまいって、比喩とか「言葉を置き換える」という行為だろうと思う。インタビュイーの特徴を文章化する技術に長けていて、ものすごくリアルに伝わってくる。いるいる、そういう人、みたいな。

いまさらだけど1Q84を読了。村上春樹の比喩表現はそっちの世界に引っ張り込んでくれる力が強くて好き。book3があって良かったなって思う物語。

村上の比喩表現は、米小説家レイモンド・チャンドラーからの影響が大きい。

村上が翻訳したチャンドラーの小説『ロング・グッドバイ』の訳者あとがきで村上は「プロットとはほとんど関係のない寄り道、あるいはやりすぎとも思える文章的装飾、あてのない比喩、比喩のための比喩、なくもがなの能書き、あきれるほど詳細な描写、無用な長広舌、独特の屈折した言い回し、地口のたたきあい、チャンドラーの繰り出すそういうカラフルで過剰な手管に、僕は心を強く引かれてしまうのだ」と説明しているが、これは比喩表現の手本としての作家チャンドラーを実に的確に表現したものだ。

実際の比喩表現の数々

顔を洗うのにすごく長い時間がかかる。歯を一本一本とりはずして磨いてるんじゃないかという気がするくらいだ。

でもそれに比べると僕の部屋は死体安置所のように清潔だった。

彼は一人息子の写真でも見せるようににっこりと微笑みながら

「もしもし、」と女が言った。それはまるで安定の悪いテーブルに薄いグラスをそっと載せるようなしゃべり方だった

街路灯は同じ間隔をたもちながら、世界につけられた目盛りのようにどこまでもつづいている。v

それは本当に素敵な笑顔だった。そのへんにある何もかもをお盆に載せてもっていきたくなるような笑顔だった。

彼は真白な画用紙を眺める時のような目つきで僕の顔を眺めた。

そしてかすかな微笑を口もとに浮かべた。風のない日に静かに立ちのぼる小さな煙のような微笑みだった。

「可哀そうな人」と彼女は言った。まるで壁に書かれた大きな文字を読み上げているような声だった。本当に壁にそう書いてあるのかもしれないなと僕は思った。

私、あなたのしゃべり方すごく好きよ。きれいに壁土を塗ってるみたいで。

誰かが遠くでピアノの練習をしていた。上りのエスカレーターを下に向かって降りているような弾きかただった

「そのときはそのときで考える」と少年は手のひらにのせて重みをはかるみたいに、僕の言葉をそのまま繰り返す。

まるで玉葱の薄皮のように軽そうなカーディガン

彼女の体には、まるで夜の間に大量の無音の雪が降ったみたいに、たっぷりと肉がついていた。

出典世界の終わりとハードボイルドワンダーランド

トマトといんげんは影のように冷やりとしていた。

ぼくは嫌な汗をかいて目を覚ました。湿ったシャツがべっとりと胸にはりついていた。身体がだるく、脚がむくんでいた。まるで曇り空をそのまま飲み込んでしまったような気分だ

彼女はオリーブをひとつ口に入れ、指で種をつまみ、まるで詩人が句読点を整理するみたいに、とても優雅にそれを灰皿に捨てた。

わたしは重ねられたふたつのスプーンのようにぴたりとミュウのそばにいて

ずいぶん長く時間をかけてシャワーで洗ったのに、ぼくの体にはまだ煙草の匂いがしみ着いていた。そして手には、命のあるものを力まかせに切断してしまったようななまなましい感触が残っていた。

彼女はカウンターに頬杖をつき、ピアノ・トリオの演奏に耳を澄ませ、まるで美しい文章を吟味するみたいにカクテルを少しずつ飲んでいた

私の部屋のドアや金庫の鍵を開けることなんてプロの手にかかればハンカチを一枚洗濯するくらいの時間しかかからない。

出典世界の終わりとハードボイルドワンダーランド

「だからといってわたしのことを嫌いになったりしないでね」とすみれは言った。彼女の声はジャン・リュック・ゴダールの古い白黒映画の台詞みたいに、ぼくの意識のフレームの外から聞こえてきた。

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ぼんさまさん

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