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「紛争」後の北アイルランド、「和平」の現状(公的な調査報告書)

元資料をまだ読んでる途中なのですが、とりあえず……。

更新日: 2012年09月28日

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この記事は私がまとめました

nofrillsさん

ベルファストの「ピース・ウォール」

……タイタニックの壁画のある場所から、大通りを渡って左斜め前に、ブライソン・ストリートという道がある。その東側(左手)にものすごく高い塀がある(上半分はネット状なので圧迫感はさほどでもないが)。人が簡単には超えられそうにはないこの塀は、「プロテスタント」と「カトリック」が互いに襲撃しあうことのないようにと設けられたもので、「ピース・ウォール」(または「ピース・ライン」)と呼ばれている。この壁はベルファストのあちこち、「プロテスタント」と「カトリック」の対立が深刻な地域に設けられている。

この「ピース・ウォール」について、新たに調査が行われた。

More than two thirds of people living near Northern Ireland's peace walls cannot see a time when they will not be necessary, a new study suggests.

The University of Ulster study was funded by the Office of the First and Deputy First Ministers.

つまり、「新たな研究」は、OFMDFMが資金を出してアルスター大学が行ったもので……って、その調査のペーパーへのリンクが記事にないんですが。 (;_;)

涙を拭いて検索… (/_;)

Peace Wallについてのアルスター大学の研究報告書はこれ。

Among the general population, the survey found:

82% believe peace walls are ugly
78% believe that segregation of communities is common even where there are no peace walls
76% would like to see peace walls come down now or in the near future
......
38% believe that peace walls are necessary because of the potential for violence
38% believe that peace walls are a tourist attraction

広く一般では:

82%が、「壁」は醜いと回答
78%が、両コミュニティがぱきっと分かれている状態は、「壁」がないところでも当たり前と回答
76%が、今すぐ、または近々に、「壁」がなくなることを望んでいると回答
……
38%が、暴力事態の可能性がある以上は「壁」は必要と回答
38%が、「壁」は観光客を呼ぶ材料だと回答(特に西ベルファストでは、元パラミリタリーの人がツアーガイドになった「紛争ツーリズム」が実施されています)

Among peace walls residents, the survey found:

69% maintain that the peace walls are still necessary because of the potential for violence
63% would like to know more about initiatives and discussions on the peace walls
58% would like to see the peace walls come down now or sometime in the future
58% were very/fairly worried about the police ability to preserve peace and maintain order if the peace wall was removed

「壁」のエリアの住民の間では:

69%が、今なお暴力の可能性があるので「壁」は必要であると主張
63%が、「壁」についてのイニシアティヴや話し合いについてもっと知りたいと回答
58%が、今すぐ、または近々に、「壁」がなくなることを望んでいると回答
58%が、「壁」が取り払われた場合、警察に平和と秩序を維持する能力があるかという点について非常に、もしくはかなり、憂慮していると回答

38% can envisage a time when there will be no peace walls
37% believe that if the peace wall was removed there would be some significant incidents but only during particular dates/anniversaries or marches; but 23% believe there will be constant problems
34% know a little and/or a lot about initiatives and discussions on the peace walls
31% believe that the community has overall responsibility for making decisions about peace walls

38%が、いつか「壁」がなくなる日がくると回答
37%が、「壁」が取り払われたら大変なことが起きる(ただし特定の日付や記念日、パレードのときのみ)と回答。一方で、恒常的に問題が出るだろうとの回答は23%
34%が、「壁」についてのイニシアティヴやディスカッションについて多少は、あるいはたくさん、知っていると回答
31%が、「壁」について決定をする全体的責任はコミュニティにあると回答

the NI Peace Monitoring Report

Peace walls have increased from 22 when the Good Friday Agreement was signed, to a current total of 48 walls, according to the NI Peace Monitoring Report.

で、「ピースウォールについての新たな研究調査」を報じる9月のBBC記事で言及されているのは、the NI Peace Monitoring Report...

登録などの必要なく、誰でも無料でダウンロードできます。
http://www.community-relations.org.uk/fs/doc/publications/NIPMR_2012_new_1.pdf

PDFでサイズは12MB弱。

ページ数は、表紙込みで186ページ。本編は pp. 40 - 178 ですが、序論にあたる部分に、北アイルランドについてのこれまでのこのようなタイプの大掛りな報告書では省略されていたような「基本的な整理」がかなり丁寧にあります。ここを読むためだけにDLしても損しません(って、報告書自体は無料なんだけど)。

「基本的な整理」がなされているBackgroundのところの目次。

1. The nature of the peace settlement は、サニングデール合意(1973年)からセント・アンドルーズ合意(2006年)、ヒルズバラ合意(2010年)までの歩みを、ほぼ箇条書きに近いかたちで端的にまとめたものです。

北アイルランドについて何かを知ろうとするときに、この流れを最初から踏まえてるかどうかでかなり違います(2000年代にいろいろ調べて、私が一番苦労したのはこの点。立場の偏りのない体系だった記述がないも同然でした)。

報告書の本編は、4つの章(Dimensionsという位置づけ)から成っています。目次から、一番細かな項目を除いたものをコピペします。

DIMENSION 1: THE SENSE OF SECURITY
  1. Overall crime rates
  2. The paramilitary threat to security
  3. Hate crimes
  4. Policing and criminal justice
  5. Safety in the public space ←ピースウォールやパレードについては、ここ。
  6. Building confidence in the public space

DIMENSION 2: EQUALITY
  1. Measuring social inequalities in Northern Ireland
  2. Equality and Inequality in the Labour Market
  3. Health Inequalities
  4. Education Inequalities
  5. Protestant and Catholic differentials

DIMENSION 3: POLITICAL PROGRESS
  1. The functioning of the Northern Ireland Assembly: progress and logjams
  2. Electoral politics
  3. North-South: the workings of the North-South Ministerial Conference
  4. East-West links
  5. Third Party Interventions: the stabilisers come off
  6. Changing attitudes

DIMENSION 4: COHESION AND SHARING
  1. The Policy Context
  2. Sharing and Separation in Housing
  3. Sharing and Separation in Education
  4. Sharing the Public Space
  5. Arts, Sports and Culture
  6. Participation in Public and Civic Life
  7. Cohesion and Civil Society
  8. Ability to deal with the past
  9. One Northern Ireland?

各武装組織が(名目だけにせよ)武装解除する前、IMC (the Independent Monitoring Commission) の報告書が出ていた時期には、Dimension 1の "2. The paramilitary threat to security" だけ、こういう形でがっつりした報告が読める、というような感じでした。(ほかの項目は、一部、クイーンズ大学やアルスター大学の研究という形ではあったかもしれません。)

「教育」という点について……

北アイルランドは「教育格差」がかなりな問題になっています。

現在は、ナショナリスト(カトリック)のほうが学があり、ユニオニスト(プロテスタント)は無学、という全体的な傾向があります。これは、カトリックのコミュニティには「紛争」の時期からずっと、「自分たちが受け継ぎ、次の世代に伝えていかねばならないもの」として「アイルランド語」という、ガチの「学習」や「訓練、実践」が必要な語学の存在があり、またコミュニティ・カレッジのような取り組みがなされてきたことが関わっている、という調査を、数年前に見たことがあります。

調査の結果は、10のポイントとしてまとめられています。表題だけですがコピペ。
http://www.community-relations.org.uk/about-us/press-releases/item/221/peace-monitoring-report/

Ten Key Points

1. The political institutions are secure(政治機構は安泰である)
2. The level of violence is down(暴力の水準は低下している)
3. Paramilitarism still remains a threat(武装組織の活動は依然として脅威である)
4. The policing deal is not secure(警察とカトリックのコミュニティとの関係はなお安泰ではない)
5. The recession is impacting upon the equality agenda(景気後退の影響で平等な社会の実現という課題に遅延が)
6. Youth unemployment is potentially destabilising(若年層の失業が不安定要因になる可能性がある)
7. A new confident and neutral urban culture has emerged(新たな、自信に満ちた政治的に中立の都市文化が出現した)
8. Northern Ireland is still a very divided society(北アイルランドの社会は今なお、くっきりと分断されている)
9. There is no strategy for reconciliation(和解のための戦略がない)
10. No solution has been found for dealing with the past(過去といかに向き合うべきか、何ら解決策は見つかっていない)

9と10は長期的な課題ですが、極論をいえば、課題が解決する前に当事者が高齢化して死んでしまうこともありうるわけです(ジェリー・アダムズらの世代がもう60代。アダムズの上の世代は2000年代に次々と亡くなっている)。

@SteFoyLesLyonFr Northern Ireland Peace Monitoring Report (PDF) three-creative.com/nipmr.pdf のDimension 2 (Equality) に、教育のことがかなり詳しく出ています。

@nofrills いつも貴重な情報をありがとうございます。p.109のイギリスの大学学費値上げと北愛の大学進学トレンドの関係の示唆など興味深いことこの上ないです。このようなバランスのとれた報告書が今になってようやく出せる状況になったことは好ましい限りですが、(続)

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