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古書をめぐるミステリ作品 (+ 番外編)

「古書」のテイストが強いミステリ作品を集めてみました。謎やトリック、ストーリーに、古書や書物の性質がよく絡んでいる作品を主に取り上げています。いわゆるビブリオミステリをはじめ、歴史ミステリや時代小説なんかも。 (13/12/14 … 1作追加)

更新日: 2013年12月14日

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kaol_nさん

はじめに

「古書」のテイストが強いミステリ作品を集めました。いわゆるビブリオミステリをはじめ、歴史ミステリや時代小説なんかも取り上げています。

謎やトリック、ストーリーに、古書や書物の性質がよく絡んでいる作品をより高く評価している傾向があります (ミステリや読み物としての評価はまた異なるかと思います)。

古書が単なる高額商品として扱われている作品 (切手や絵画など、他のコレクターズ・アイテムに置き換えても成立しそうなもの) あるいは、雰囲気作りの飾りにしか使われていない作品は評価が低い…というか、そもそも取り上げていません。

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文学作品としても、ミステリとしても名高い作品。ショーン・コネリー主演で映画にもなっています。

中世の修道院で起こった殺人を探偵役の修道士が解明していく…という推理小説の形式をなぞりながら、さまざまな書物への言及やほのめかしで、読者を知の迷宮へ誘い込みます。

さらには、書物の特性を活かしたミステリとしても (ここで詳しく明かすわけにはいきませんが)、これがなかなかなわけでして、何というかもう食べるところが多すぎて困ってしまいます。

ある殺人と希少な活字印刷本をめぐって、テンポよく進むミステリ。

主人公はベトナム帰りの大学教授。…ダニング作品もそうですが、マッチョ寄りな主人公をあしらうのは、古書のイメージとは逆を狙ってのことなんでしょうかね。しかし、ストーリーの方はその割に静かな展開で、バイオレンスっぽいトッピングはあるものの、それがかえって無駄になっている感も。

一方、書物好きの視点から見ると、鑑定の描写が予想以上にしっかりしており、実に読み応えがあります。図らずも勉強になりました。犯人捜しよりは、捜査過程や鑑定のあれこれを楽しむタイプの作品です。西洋の文学や書誌学に興味がある方はぜひ。

元警官の古書店主クリフォードが主人公の一連のダニング作品は、いまやすっかり古書ミステリの代名詞的存在になっています。

第1作の『死の蔵書』は、古書蘊蓄こそ楽しかったものの、古書と謎の絡み具合ではまだまだ工夫の余地がありそうでした。

それに対し、シリーズ2作目の『幻の特装本』では、印刷や造本など「本」ならではの要素がしっかり謎に絡んできます。

このシリーズは、1作ごとの味わいがさまざまで、それぞれに違った楽しみ方ができます。たとえば第3作の『失われし書庫』は、書物の要素もさることながら、歴史ミステリの様相も加わって、また違った意味でお勧めです。

大学図書館での図書燻蒸後、書庫で遺体が発見され…というのが発端のミステリ。

古書やその構造、往時の出版事情などが謎や物語にしっかり絡んでいます。作者はビブリオミステリを他にいくつも出しているのですが、その中ではこの作品が一番「書物」の特性を活かしているように思います。強いて難を挙げれば、『殺人詩篇』と少しかぶる点があること。

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参考: その他の紀田順一郎作品
『古本屋探偵の事件簿』
『古本街の殺人』
『古書収集十番勝負』(ミステリ要素は薄い)
『神保町の怪人』

書物そのものに謎が隠されている…というよりは、収集家や古書業界に焦点を当てた作品が多いように思います。

エラリイ・クイーンのレーン四部作(『Xの悲劇』、『Yの悲劇』、『Zの悲劇』と本作)の掉尾を飾る作品。

シェイクスピアの稀覯本等々がストーリーにしっくりはまっていて、「古書ミステリ」としても実に良作です。

…が、この作品についてはそういう枝葉のところより、ドルリイ・レーン四部作の最後の悲劇として、その重厚な味わいを堪能すべし。頭のXから、全作読み通すことを強くお勧めします。

北鎌倉の古本屋「ビブリア古書堂」の店主、栞子さんが古書にまつわる謎を解いていく、ライトミステリ。

非常に居心地のいい世界。ただ居心地がいいだけでなく、実在の古書を取り上げていることで、物語が引き締まり、奥行きを深めています。

ライトノベル的なけれん味は控えめで、この方面に馴染みが薄くても物語の世界に入りやすいように思います。

貴族の図書室から紛失したある稀覯本。その捜索を依頼された書店主が「迷宮としての世界」をめぐる謎に巻き込まれていく…という、17世紀が舞台の歴史ミステリ。

当時のさまざまな書物と歴史事項が緻密に織り込まれていて、推理小説よりは、歴史小説の味わいが強い作品です。

主人公は17世紀当時の書店主。怪しげな本、いわく付きの本が作中幾度となく言及され、洋古書好きの興趣をそそります。秘密を解く鍵となる仕掛けにも往時の本の特徴が活かされています。

将軍家の蔵書を維持管理するお役目の「御書物方同心」。その一員に加わった東雲丈太郎だが、地味なお役目の印象とは裏腹に、小さくも奇妙な事件や謎が次々と起こる…。

ミステリ要素は微々たるもの。謎自体はしっかりあるのですが、謎解きに苦労することがほとんどなく、謎の方から勝手に解けてくれる印象です。…捕物帖じゃないので、しょうがないか。

この本の魅力は、謎解き云々よりも、当時の書物や御文庫に関する記述。江戸時代の書物事情に少しでも興味があれば、一読することを強くお勧めします。

3冊のシリーズで、他に『続御書物同心日記』、『御書物同心日記<虫姫>』が刊行されています。
…もう続刊はないのだろうか。

ユダヤ教の禁忌に反し、絵画が描かれた500年前の稀覯本「サラエボ・ハガダー」。修復の過程を通して、この本のたどった運命と、ユダヤの凄絶な歴史が浮かび上がる…という歴史ミステリ的な作品。

本の修復過程で得られた蝶の羽やワインの染み等の科学鑑定を経て、本のたどった歴史を垣間見せるのが面白いところです (もっとも、そこで語られた歴史が事実である、ということは必ずしも意味していないのですが)。

ちなみに、この作品自体はフィクションですが、「サラエボ・ハガダー」は実在する書物です → http://ow.ly/3Apaa (Google Image)

ありふれた古本屋を舞台に起こる事件を店主のイワさんが解決していく…という連作短編集。

「稀覯本の謎を解き明かす」といった、いかにも古書な感じではなく、身近なところにいる、本を愛する人たちに起こった小さな事件を描いた作品です。

古書にまつわる日本の短編12作(+乱歩の絵)を収めています。掲載作品は、次の12編です (掲載順)。

・二冊の同じ本 (松本清張)
・怪奇製造人 (城昌幸)
・焦げた聖書 (甲賀三郎)
・はんにん (戸板康二)
・献本 (石沢英太郎)
・水無月十三么九 (梶山季之)
・神かくし (出久根達郎)
・終夜図書館 (早見祐司)
・署名本が死につながる (都筑道夫)
・若い砂漠 (野呂邦暢)
・展覧会の客 (紀田順一郎)
・倉の中の実験 (仁木悦子)

さまざまなテイストの作品に出会えて、楽し。

1冊だけ洋書を。探偵役をつとめる主人公が何と「書物修復家」の女性という作品です。

手にしたものが呪われるという、ゲーテ『ファウスト』の豪華特装本。主人公の師匠がその修復を手がけることになるが、彼は何者かによって殺害され…。


軽快な会話や叙述でサクサクと話が進む、いわゆるコージー・ミステリ。書物と謎の絡み具合はほどほどですが、製本/修復の場面や蘊蓄がたっぷり織り込まれ、つい頬が緩みます。

英語は平易。ただ、西洋の書物に関する知識や用語を知らないと引っかかりやすいかもしれません。

この作品は幸い好評を得たようで、現在すでに長編7冊と短編1篇(電子書籍のみ)を数えるシリーズとなっています。

"Homicide in Hardcover"、翻訳はおろか日本語の情報もあまりないようなので、もう少し書き足しておきますと…。

作者はハーレクインなんかも書いていた人で、それ風なところがちょくちょくあります。主人公のサポート役となる英国人をはじめ、セクシーな「ゴージャス・ガイ」が何かとヒロインの世話を焼いてくれて、つい笑ってしまいました。

また、修復の観点からは「ホントに?」と思うところが多少ありました。修復に対する価値観の違いなんかもありますし、そもそもこのような軽いフィクションに目くじらを立てることもないとは思うのですが、念のため。


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■ ■ その他 ■ ■
選外とした作品をいくつか。ミステリとしては弱かったり、幻想/空想味が強すぎたり、短編だったり。

『愛についてのデッサン』(野呂邦暢)。
『書物狩人(ル・シャスール)』ほか(赤城毅)。
『悪魔祈祷書』(夢野久作)。短編。 http://ow.ly/38Klb (青空文庫)
『不和の種、小さな村のメロドラマ』(ドロシー・L・セイヤーズ) …短編。『ピーター卿の事件簿』に所収。

『コーデックス』(レヴ・グロスマン) …本関係の描写だけなら悪くないのですが。

『蒼林堂古書店へようこそ』(乾くるみ)。舞台が古書店で、本が関係する謎も少し出てくる…けど、ミステリ案内と言った方が適切か。

『古書店アゼリアの死体』(若竹七海)は、ミステリとしてしっかりしているし、ロマンス小説の蘊蓄とか非常に楽しいものの、謎やプロットの骨格に古書や書物は無関係ということで選外に。

『古書狩り』(横田順彌) … 短編集。各篇の作風はさまざまで、ミステリと呼べそうなものは1作のみ。ハチャハチャSFも1本くらい入れてほしかった…。

ほかに、エリザベス・デイリイの作品が面白そうなのですが、自分はまだ読めていません…。


■ ■ 紀田順一郎作品について補足 ■ ■
再編されたり、改題されたものが多く、買ったり、借りたりするときに間違いやすいので、整理しておきます。
        旧       →      新
・『幻書辞典』(短編集)     → 『古本屋探偵の事件簿』に収録
・『古本屋探偵登場』(『幻書辞典』の改題) → 『古本屋探偵の事件簿』に収録
・『われ巷にて殺されん』(長編) → 『古本屋探偵の事件簿』に「夜の蔵書家」と改題して収録
・『鹿の幻影』(長編)      → 『古本街の殺人』に改題
・『魔術的な急斜面』(長編)   → 『古書収集十番勝負』に改題

最新の版だと、『古本屋探偵の事件簿』、『古本街の殺人』、『古書収集十番勝負』、『第三閲覧室』、『神保町の怪人』の5種類ということになります。

■ ■ 番外編 ■ ■

- - 図書館ミステリ - -

地方の公共図書館が舞台の連作短編ミステリです。年月を重ねた本にまつわるミステリ…と言えなくはないですが、古書ミステリと呼ぶのはちょっと違うだろうということで、番外編に。

のどかで滋味豊かで、ほっこり。その一方、作中描かれる公共図書館の日常にはリアリティがあります(本職の方からは「こんなのんびりした図書館ない!」と言われるかもしれませんが)。

プロットや謎/謎解きも図書館ならではで、非常に楽しめます。

- - お勧めできない古書ミステリ - -

「古書殺人事件」とそのものズバリなタイトルで、つい読んでみたくもなるのですが、あまりお勧めできない作品です。

殺人事件の濡れ衣を着せられた若者を救うため、古書業界の魑魅魍魎を相手に立ち回る、といった態の作品。古書エッセンスはわずかにあれど、話がバタバタしてばかりで古書と謎のつながりもいま一つです。

さらに悪いことに、翻訳の質がよくありません。たとえば、金の匂いをかぎつけた主人公の台詞が、こんな感じです。
「…(略)… ぼくという男はかなり抜け目がなく、しっかりしている。そして神秘な権利をぼく自身の裏庭に持ってるんだ。もしそこに金があるというなら、ぼくのものだ…(略)…」

…うーん。

- - 古書ミステリへの誘い - -

古書が関連する推理小説を紹介する好著です。

紹介図書は鞍馬天狗からハーレクインにまで及んでいて、実に実に楽し。このまとめで取り上げていない作品もたくさん紹介されています。

強いて難点を挙げるとすれば、紹介されている作品の中には古くて入手が難しいものも多く、読みたくても読めないお預け状態になってしまうこと。自分もまだまだ読めていない作品が多いです…。

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