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映画「アルゴ」はどの程度「事実」を描いた映画なのか/アカデミー賞後のイランの反応

映画Argoは「実話に基づいた」映画ですが、基本的に「実際にあった出来事にヒントを得たフィクション」だと思っていたほうが良い作品です。この映画が米国のアカデミー賞で作品賞を獲得したことでのイランの反応も併せて。

更新日: 2014年11月09日

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この記事は私がまとめました

nofrillsさん

第85回米アカデミー賞、作品賞をとったのは、「アルゴ Argo」

2013年2月。オスカー像を手にしたプロデューサーと監督。

http://wwws.warnerbros.co.jp/argo/dvd/
日本版の予告編の冒頭、
「これは実話です」と大きく表示され、
「この事件は、18年間秘密にされていた」と出ます。

「18年間秘密にされていた」のは「事実」です。
この映画自体が「実話に基づいている」ことも「事実」です。

でも……

Ooh, this has put me off watching #Argo bbc.co.uk/news/entertain… Thought it was based completely on fact :(

(このように、「実話」として宣伝していたのは、日本だけではないみたいですけどね……)

でもこの映画、実はツッコミどころ満載……

Relax. Argo isn't the first historically inaccurate movie to win an award. #Oscars

「まあもちつけ。歴史的事実としてみれば不正確な映画が受賞するのは、アルゴが初めてじゃない」

(ジョッシュはアフガニスタンの人ですがイランにも縁があります。)

- カナダからの反応

Canadians I know are furious with movie, for making it all the CIA's idea... RT @kalsoom82: BEN AFFLECK THANKED CANADA. @asmakhansaigol

授賞式でカナダに対し感謝の辞を述べた監督・主演のベン・アフレックですが、映画公開時にはカナダの人々から猛反発が出ていました。

英デイリー・テレグラフのロブ・クリリーさん(在パキスタン)は、「僕が知っているカナダの人たちは、あの映画にはひどく怒っていた。全部CIAの着想ということにされていたので」

Former ambassador to Iran says Argo writer had no idea what he was talking about huff.to/12MNkeh

映画にも登場する「カナダ大使」ご本人の、大学での講演会での発言。「映画『アルゴ』の脚本家は、自分が何を言っているのかまるでわかっていない」

この時点で既に映画は脚本賞、作品賞などでアカデミー賞にノミネートされていただけでなく、ゴールデン・グローブの監督賞、BAFTA(英アカデミー賞)の作品賞などを取ってました。

He took issue with a myriad of creative liberties that included the "black and white" portrayal of Iranian people, fabricated scenes and the suggestion he was little more than a meek observer to CIA heroics.

「イランの人々を『黒か白か』で描写する、実際にはなかった場面を捏造する、自身について、CIAの英雄的な人々を見守っていただけであるかのように描いている、などなどあまりにフリーダムすぎる制作姿勢に、元大使は疑問を呈している」

While recognizing that "Argo"'s primary goal was entertainment, Taylor says an upcoming documentary will present a more balanced picture of his role and the situation in Iran.

"After I saw the movie I decided that I did bring one particular skill to this movie: That was opening and closing a door," Taylor said to laughs ...

"We could go on but the amusing side is the script writer in Hollywood had no idea what he's talking about."

「『アルゴ』の第一の目的は娯楽であるということを認めたうえで、テイラー元大使は、完成を控えたドキュメンタリー作品が、彼の役割とイランの状況についてよりバランスの取れた像を提示するものになると語る。『あの映画を見た後で、なるほど、私はこの映画にとってひとつの特異なスキルの持ち主だったということだなと納得しました。つまり、ドアを開け閉めするというスキルの』と述べて笑いを取った元大使は、『こういう話はいくらでもできますが、おもしろいのは、ハリウッドの脚本家には自分が何を言っているのか、まるでわかっちゃいなかったということですね』」

- 英国からの反応

Sir John Graham, former UK ambassador #Iran on film #Argo: "film wrong to suggest the British embassy turned the escaping Americans away."

英BBCのニューズアワーのツイート。「(当時の)駐テヘラン英国大使だったサー・ジョン・グレイアムが、映画『アルゴ』について、『英国大使館が、脱出してきたアメリカ人を追い返したように描いている点が間違っている』と述べた」

※これは映画公開時からずっと、サー・ジョンがおっしゃっていることです。追い返したのではなく、イランとの関係という点では米国以上にめんどくさい英国の大使館に逃げてくると、逆に立場が悪くなるという判断でした。

"It didn't need to say we turned them away, which wasn't true" British Ambassador to #Iran in 1979, Sir John Graham on #Argo @bbcnewshour

そうなんですよね、単にスルーしていればよかったのに、「英国大使館は受け入れない」と言葉で説明してしまっているのが何とも……。「アメリカ人救出作戦で他国なんて頼れるか!」という話にしてあるんなら、まだよかった。

Bafta's decision to award Best Picture to Argo is shocking, given its neglect of Britain's role in the story blogs.telegraph.co.uk/news/tobyyoung…

なぜBAFTA(英アカデミー賞)が……という驚きの声は英メディアに出てはいました。

- 「事実」の解説という点での検討

http://www.wideasleepinamerica.com/2013/02/oscar-prints-the-legend-argo.html

抄訳:
ハフィントン・ポストのインタビューで、アフレックは「事実という点で忠実な映画にしたかったんです。どちらの側からも利用されたくなかったので。国際的にも国内的にも、政治化されたくなかったんですね。ぼくがやりたかったのはただ、自分が理解しているような事実について、何があったのかを語ることです」と語っている。
http://www.huffingtonpost.com/2012/10/07/ben-affleck-argo_n_1946884.html

アフレックが言う事実には、1979年11月4日にテヘランの米大使館はなぜ占拠されたのかを理解するということは、含まれていないようだ。「あの行為には、特に理由らしいものはなかったんですよ」とアフレックは主張している。「アメリカが何かしたからという理由で大使館占拠が行われたわけではない」(と言いつつ、映画の冒頭部では、シャーの独裁政権に米国が関わってきたことについてざっと振り返っているのだが……これもまた不正確ではあるにせよ)。→後述
http://www.rollingstone.com/movies/news/q-a-ben-affleck-on-directing-argo-and-surviving-hollywood-20121012

ベン、そうじゃない。理由の一つは、1953年に行われたようなCIAが画策したクーデターがまた起きるのではないかという不安だ。あのとき、まさにこの大使館が現場だったのだ。もうひとつ、理由として挙げられるのは、退位させられたシャー(国王)が医療目的で米国に入国する許可を得たこと。25年間にわたる、イランの人々に対する犯罪行為(米国政府はそのための資金も支持も与えていた)について法の裁きを受けさせるために国外追放とするのではなく、政治亡命を認めたこと。むろん、そういった理由に個人的に賛同するかどうかはあるだろうが、現にそれらの理由が存在したということが事実だ。

※「後述」の箇所(原文では脚注):
冒頭のスライドショーみたいなところで、ナレーションが入る。「1950年、イランの人々は、世俗主義の民主主義者、モハンマド・モサデクを首相に選出した。モサデクは英国と米国の石油企業を国営化し、イランの石油をイランの人々に返した」。

(訳注:実際に劇場で見たとき、いきなりおかしくないかと私も劇場でコケたんですが、おかげで娯楽映画としてポップコーン食いながら見てればいいんだとわかりました)

モサデクが国会議員に当選したのは1944年。首相になったのは1951年4月。それから、首相は国民が選出するものではない。(云々。アメリカでは「議院内閣制」がまともに教えられないんですね。インテリでもその点の認識がぐだぐだな人は珍しくない。)

また、当時米国は、イランには石油権益を有していなかった。(訳注:ざっくり言うと、英国が持っていた石油権益を米国が守ろうとしたのです。これ、「陰謀論」界隈でも妙な把握がなされてることがあると思いますが。)

それから、映画は1953年のクーデターについて短く説明したあとで、英国と米国が「レザー・パーレビ(注:パフレヴィーと表記すべきかもしれませんが便宜上)をシャー(国王)として据え付けた」と述べているが、なんですかそれは、と。

まず、シャーの名前は「レザー・パーレビ」ではない。それは父親の名前だ(息子もそう名付けたが)。さらに、モハンマド・レザー・パーレビはシャーとして据え付けられたわけではない。英国とソ連がイランに侵略し占領し、父親のレザー・シャー・パーレビを強制的に退位させた後の1941年9月に即位して以来、ずっとイラン国王だったのだから。

シャーは、1953年のクーデターの間、国外に逃げていた(最初はバグダードへ、続いてローマへ)。モサデクが追われた後、シャーは「クジャクの玉座」(イラン国王の座)に戻った。

別に難しい話ではない。それなのに映画『アルゴ』の脚本家と監督はろくに調べることもしなかったのだ。その上、ベン・アフレックは大学で中東研究を専攻していた。卒業はしていないが、それはまあ当然というところか。

……以上、下記の抄訳。
http://www.wideasleepinamerica.com/2013/02/oscar-prints-the-legend-argo.html

As it ends, the words "Based on a True Story" appear on the screen. The first live action moment we see in "Argo" is of an American flag being burned.

So much for Affleck's insistence that "Argo" is "not a political movie."

「(冒頭の歴史解説の部分)が終わると、『実話に基づく』という文字列がスクリーンに現れる。そして映画『アルゴ』で最初の実際の人の動きをとらえた映像は、米国旗が燃やされている場面である。アフレックは、『アルゴ』は『政治的な映画ではない』と主張しているが、そんなのは通用しない」

- 実際にはどのようなことがあったのか、なかったのかという当事者証言

It won a Golden Globe & is based on history but what's fact and what's fiction in the movie? Argo: The true story bbc.in/ZZJ12P

BBC News - Argo: The true story behind Ben Affleck's Oscar-nominated film bbc.in/SvmGYv とてもよくできた娯楽映画「アルゴ」は映画としてスリル満点の見どころは全部架空。当事者談。

「撮影隊」は「バザールにロケハン」になど行かなかったし、空港では係官はダルそうに旅券にスタンプを押しただけで、カーチェイスみたいなことは実際には起きなかった。など。6人は2軒の家に分かれて滞在していたので、人間関係も映画とは違っていた。

Mark Lijekさんのご著書の紹介文。

1979年11月4日、米大使館が占拠され、6人が脱出した。

1979年11月10日、カナダ(大使)がこれら6人の「客人」をかくまった。

(米大使館にとらわれている)人質をめぐる交渉は膠着。CIAが救出作戦を計画。カナダは旅券を提供した。

1980年1月28日、アルゴ(計画)は実行された。6人は脱出した。CIAの役割は秘密とされた。

1997年9月、CIAがアルゴ計画を開示した。論争が巻き起こった。6人を助けたのは誰か。

本を読んで、ご自身でご判断ください。

A friend of my daughters just sent her this, Argo: Inside Story is still running on @discovery Channel East Coast. pic.twitter.com/8btJEoJJoE

Mark Lijekさんご本人のツイート。ディスカバリー・チャンネルでドキュメンタリーが制作されていたんですね。これを多くの人がテレビで見ることができる米国内向けには、それで「バランスの取れた」情報提供になる。でもこの番組を見られないところでは?

#Argo favourite for Oscars, but Agent Mendez explains how they really managed to leave Iran bbc.in/YzJRi8 (Warning: spoiler alert)

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