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1分で読める青空文庫の短編←小説・詩・随筆おすすめ30作品

青空文庫から1分くらいで読める短いものを独断で30本、チョイスしてみました。

更新日: 2013年03月14日

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mitimasuさん

小説・童話

天草(あまくさ)の原(はら)の城の内曲輪(うちくるわ)。立ち昇る火焔。飛びちがふ矢玉。伏し重(かさ)なつた男女の死骸(しがい)。その中に手を負つた一人の老人。老人は石垣の上に懸けた麻利耶(マリヤ)の画像を仰ぎながら、高声に「はれるや」を唱(とな)へてゐる。
 忽ち又一発の銃弾(じうだん)。
 老人はのけざまに仆(たふ)れたぎり、二度と起き上る気色は見えない。白衣の聖母は石垣の上から、黙黙とその姿を見下してゐる。おごそかに、悠悠と。
 白衣の聖母? いや、わたしは知つてゐる。それは白衣の聖母ではない。明らかに唯の女人である。一朶(いちだ)の薔薇(ばら)の花を愛する唯の紅毛の女人である。見給へ。その女人の下にはかう云ふ金色の横文字さへある。ウイルヘルム煙草商会、アムステルダム。阿蘭陀(オランダ)……

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入力:土屋隆
校正:松永正敏

或、若い女が、真心をこめて一人の男を愛した。そして、結婚し、三年経った。けれども、或日その若い女は、
「ああ苦しい、苦しい! 可愛い人。私は貴方が可愛いのよ、だけれども苦しくて、息がつけない」
と、泣き乍ら、男の傍から逃出して仕舞った。
 逃げはしたが、女は他に恋した男があったのではない。彼女は、生れた親の家へ戻った。そして、黙って、二粒の涙をこぼし、頭を振り、やがて寂しく微笑んで縁側に坐った。
 朝眼を覚すと、一日中、月の出る夜になっても、女は、いつも同じ縁の柱によって居る。
 母親は不思議に思い、娘に
「お前、どうしていつも其処に居るの? 内へお入りな」
と云った。
 娘は、微笑した。然し、翌日も、その柱からは離れなかった。
 柱には、縦に深く一本割れ目がついて居た。女は、きっとその割け目に耳をおしつけて居た。(それを、母親は知らない。)彼女は、そうやって耳をつけ、柱の奥から、嘗て自分の恋をした、今も可愛い男の声を聴いて居たのだ。自分を抱いて名を呼ぶ声、向い合って坐り、朝や夜、種々の物語をした、その懐しい声を聞いて居たのだ。

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入力:柴田卓治
校正:磐余彦

鶴岡(つるおか)の城下に大場宇兵衛(おおばうへえ)という武士があった。其の大場は同儕(なかま)の寄合があったので、それに往っていて夜半比(よなかごろ)に帰って来た。北国でなくても淋しい屋敷町。其の淋しい屋敷町を通っていると、前方から葬式の行列が来た。夕方なら唯(と)もかく深夜の葬式はあまり例のない事であった。大場は行列の先頭が自分の前へ来ると聞いてみた。
「何方(どなた)のお葬式でござる」
 対手(あいて)は躊躇(ちゅうちょ)せずに云った。
「これは大場宇兵衛殿の葬式でござる」
「なに、おおばうへえ」
「そうでござる」
 行列は通りすぎた。宇兵衛は気が転倒した。そして、家へ帰ってみると、玄関前に焚火(たきび)をしたばかりの痕(あと)があった。それは葬式の送火であった。
 大場は其の晩からぶらぶら病になって、間もなく送火を焚(た)かれる人となった。

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底本:「怪奇・伝奇時代小説選集3 新怪談集」春陽文庫、春陽堂書店
   1999(平成11)年12月20日第1刷発行
底本の親本:「新怪談集 物語篇」改造社
   1938(昭和13)年
入力:Hiroshi_O
校正:noriko saito

Y子はK病院で扁桃腺の手術をすることになつた。
 Y子は九歳で、春夏秋冬、風邪をひいた。
 Y子は母親と、K子叔母ちやまと、女中とに連れられて家を出た。
 Y子はその日、平生よりもはしやいでゐた。そして、時々、溜息を吐いた。
 裸にされ、手術室にはひると、そばに母親も、K子叔母ちやまも、女中もゐなかつた。
 Y子は、一寸泣きたさうな顔をしたが、やがて、夢中で口をあいた。――母親が、鍵孔から、息をこらして、中の様子を見てゐることなど、勿論知らなかつた。
 突然、Y子は泣き出した。喉がチクツとした。
「さ、もう一度、口をあいて……」
 お医者さんが云つた。
 母親は、鍵孔に眼を押しつけた。
 Y子は泣きながら、大きな口を開いた。
 こんどは、母親が泣きたくなつた。
 そのことを、あとで、K子叔母ちやまと女中とに話したら、二人とも、また泣きたくなつた。
 Y子は、喉に氷をあてゝ、ちよつと、得意さうに眼をつぶつてゐた。

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入力:tatsuki
校正:門田裕志、小林繁雄

オヂイサンハ イナカニ ヒトリボツチデ クラシテ ヰマシタ。
ダンダン ミミガ トホク ナツタノデ、ミヤコニ ヰル ムスコノ トコロヘ、
「ミミガ トホク ナツタカラ、ヨク キコエル キカイヲ カツテ オクツテ クレ。」
ト イツテ ヤリマシタ。

 ムスコハ、イロイロ サガシタガ、アマリ ヨイ キカイガ ナイノデ、ラツパヲ カツテ、
「コレヲ サカサマニ シテ ミミニ ツケテ、ラツパノ シリカラ キキナサイ。」
ト イツテ ヤリマシタ。

 オヂイサンハ、ソノ ラツパヲ ヨロコンデ ツカツテ ヰマシタガ、ミミハ ドンドン トホク ナツテ、トウトウ ツンボニ ナリマシタ。
ソレデモ オヂイサンハ、
「アノ ラツパデハ キコエナク ナツタカラ、モツト ヨク キコエルノヲ オクツテ クレ。」
ト ムスコニ テガミヲ ヤリマシタ。
ムスコハ イロイロ カンガヘテカラ、マタ マエノ ラツパト オナジ ラツパヲ オクツテ、
「コノ ラツパヲ ミミニ ツケルト ワタシノ コヱガ キコエマス。」
ト イツテ ヤリマシタ。オヂイサンハ、ソノ ラツパヲ ミミニ アテテ ミマシタ。ソシテ、
「アア キコエル キコエル、ナツカシイ ムスコノ コヱガ キコエル。」
ト イツテ ヨロコビマシタ。

ケレド ソレハ、オヂイサンノ ミミガ キイタノデハ アリマセン、ココロガ キイタノデス。

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入力:高松理恵美
校正:川向直樹


※まとめ主が適時改行を付与しました。

五ニンノ サムライガ タビヲ シテ アル ヒ ヤマミチヲ トホリカヽルト、木ノ 下ニ 一ピキノ サルガ ヰマシタ。
「アノ サルヲ キラウ。」
「サウダ、ワタシガ キル。ワタシハ モウ 一ツキアマリ カタナヲ ヌカナイノデ、ウデガ ムヅムヅスル。」
「イヤ、ワタシガ キル。ワタシノ カタナハ ヨク キレル。」
「ダメダ ダメダ、キミラノ ウデデハ サルヲ トリニガシテ シマフ。ワシガ キル。」
「オネガヒダ、ワタシニ キラセテ クレ。」
 ケレド、ヨク ミルト、ソノ サルハ ビヨウキニ カヽツテ ウゴケナク ナツテ ヰマシタ。ビヨウキノ サルヲ キツテモ シカタナイト イフノデ、五人ノ サムライハ、ソノ サルヲ ツレテ ユキマシタ。ヤガテ サルハ、ビヨウキモ ナホツテ 五人ノ サムライニ ヨク ナレマシタ。トコロガ、マイニチ イツテモ イツテモ ヒロイ ノハラデ タベモノガ ナイノデ サルヲ コロシテ タベナクテハ ナラナク ナリマシタ。
「オマヘ キレ。キリタイノダラウ。」
「イヤ、オマヘ キレ。オレノ カタナハ ハガ コボレテ ヰル。」
「オマヘハ ドウダ、ウデガ ムヅムヅシテルンダラウ。」
「ウーン、ダメダ、オナカヾ イタイカラ。」
 ソノ ウチニ ノハラノ ムカフニ ムラガ ミエテ キマシタ。
「アツ ムラダ。アソコヘ ユケバ タベモノハ アル。サルハ コロサナクテ ヨイ。」
 五ニンノ サムライハ サルヲ キラナクテ ヨカツタ コトヲ、メニ ナミダヲ タメテ ヨロコビマシタ。

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入力:高松理恵美
校正:川向直樹

死にかかった病人の枕元でお医者が首をひねって、
「もう一時間も六カしいです」
 と言いました。
「とてもこれを助ける薬はありません」
 これを聴いた病人は言いました。
「いっその事、飲んでから二、三日目に死ぬ毒薬を下さい」

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入力:川山隆
校正:土屋隆

懐中時計が箪笥の向う側へ落ちて一人でチクタクと動いておりました。
 鼠が見つけて笑いました。
「馬鹿だなあ。誰も見る者はないのに、何だって動いているんだえ」
「人の見ない時でも動いているから、いつ見られても役に立つのさ」
 と懐中時計は答えました。
「人の見ない時だけか、又は人が見ている時だけに働いているものはどちらも泥棒だよ」
 鼠は恥かしくなってコソコソと逃げて行きました。

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入力:川山隆
校正:土屋隆

与太郎は毎日隣村へ遊びに行って、まだ日の暮れぬうちに森を通って帰って来ました。
「あの森は狸がいていろいろのものに化けるから、日の暮れぬうちに帰らぬと怖ろしいぞ」
 とお母さんが言いきかせているからです。
 ある日、太郎はうっかり遊び過ごして真暗になって帰って来ました。森の中に入ると、忽ち一丈もある位の一つ目入道が出ました。
「ヤア。大きな伯父さんが出て来た。眼玉が一つしかないんだね。面白いなあ。僕と一緒にうちへ遊びに来ないかい」
 と与太郎は言いました。一つ目入道は見ているうちにロクロ首になりました。
「ヤア。綺麗な首の長い姉さんになった。変だなあ。どうしてそんなに長くなるの。もっともっと長くして御覧」
 と言いました。ロクロ首は今度は鬼の姿になりました。
「オヤ、鬼になった。お節句の人形によく似てる。可笑(おか)しいなあ。もっといろんなものになって御覧」
 化け物は与太郎がちっとも怖がらないのでつまらなくなって、狸になってしまいました。それを見ると与太郎は真青になって、
「ワア狸が出たあ。化けると大変だ。助けてくれ」
 と言いながら一所懸命逃げて行きました。

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入力:川山隆
校正:土屋隆

ひとの世の男女の
行ひを捨てて五年
夫ならぬ夫と共(ともに)棲(す)み
今年また庭のさざんくわ
夫ならぬ夫とならびて
眺め居(ゐ)る庭のさざんくわ

夫ならぬ夫にしあれど
ひとたびは夫にてありし
つまなりしその昔より
つまならぬ今の語らひ
浄(きよ)くしてあはれはふかし
今年また庭のさざんくわ
ならび居て二人はながむる。

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入力:門田裕志
校正:土屋隆

冷たさよ
わが身をつゝめ

わが書齋の窓より見ゆる
遠き岡、岡のうへの木立
一帶に黝(くろ)み靜もり
岡を掩ひ木立を照し
わが窓さきにそゝぐ
夏の日の光に冷たさあれ

わが凭る椅子
腕を投げし卓子(てーぶる)
脚重くとどける疊
部屋をこめて動かぬ空氣
すべてみな氷のごとくなれ

わがまなこ冷かに澄み
あるとなきおもひを湛へ
勞れはてしこゝろは
森の奧に
古びたる池の如くにあれ

あゝねがふ
わが日の安らかさ
わが日の靜けさ
わが日の冷たさを

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入力:柴武志
校正:浅原庸子

天幕の破れ目から見ゆる砂漠の空の星、駱駝(らくだ)の鈴の音がする。背戸(せど)の田圃(たんぼ)のぬかるみに映る星、籾磨歌(もみすりうた)が聞える。甲板に立って帆柱の尖(さき)に仰ぐ星、船室で誰やらが欠(あく)びをする。

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入力:Nana ohbe
校正:松永正敏

あかいめだまの さそり
ひろげた鷲の  つばさ
あをいめだまの 小いぬ、
ひかりのへびの とぐろ。

オリオンは高く うたひ
つゆとしもとを おとす、
アンドロメダの くもは
さかなのくちの かたち。

大ぐまのあしを きたに
五つのばした  ところ。
小熊のひたいの うへは
そらのめぐりの めあて。

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入力:田中敬三
校正:土屋隆

ドツテテドツテテ、ドツテテド、
でんしんばしらのぐんたいは
はやさせかいにたぐひなし
ドツテテドツテテ、ドツテテド
でんしんばしらのぐんたいは
きりつせかいにならびなし。

ドツテテドツテテ、ドツテテド
二本(ほん)うで木(ぎ)の工兵隊(こうへいたい)
六本(ぽん)うで木(ぎ)の竜騎兵(りうきへい)
ドツテテドツテテ、ドツテテド
いちれつ一万(まん)五千人(せんにん)
はりがねかたくむすびたり

ドツテテドツテテ、ドツテテド
やりをかざれるとたん帽(ばう)
すねははしらのごとくなり。
ドツテテドツテテ、ドツテテド
肩(かた)にかけたるエボレツト
重(おも)きつとめをしめすなり。

ドツテテドツテテ、ドツテテド、
寒(さむ)さはだへをつんざくも
などて腕木(うでぎ)をおろすべき
ドツテテドツテテ、ドツテテド
暑(あつ)さ硫黄(いわう)をとかすとも
いかでおとさんエボレツト。

ドツテテドツテテ、ドツテテド、
右(みぎ)とひだりのサアベルは
たぐひもあらぬ細身(ほそみ)なり。

ドツテテドツテテ、ドツテテド、
タールを塗(ぬ)れるなが靴(くつ)の
歩(ほ)はばは三百(びやく)六十尺(じうしやく)。

ドツテテドツテテ、ドツテテド
でんしんばしらのぐんたいの
その名(な)せかいにとゞろけり。


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入力:田中敬三
校正:土屋隆

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