母は長崎県出身で当然祖母も長崎にいる。
祖母は、戦争経験からか熱心な仏教徒だ。 S先生はその祖母が週一度通っている自宅兼寺の住職さんだ。
俺も何度か会ったことがある。
俺は詳しくはないが、宗派の名前は教科書に乗ってるくらいだから似非者の霊能者などとは比較にならないほどしっかりと仏様に仕えてきた方なのだ。

人柄は温厚、落ち着いた優しい話し方をする。
俺が中学に上がる頃親父が土地を買い家を建てることになった。 地鎮祭とでも言うんだっけ? 兎に角その土地をお祓いした。

その一週間後に長崎の祖母から「土地が良くないからS先生がお祓いに行く」という内容の電話があった。当然、母親的にも「もう終わってるのに何で?」ってことでそれを言ったらしい。 そしたら祖母から「でもS先生がまだ残ってるって言うたったい」って。

つまり、俺が知る限り唯一頼れる人物である可能性が高いのがS先生だった。


日も暮れてきて、埼玉の実家があるバス停に着いた頃には夜9時を回る少し前だった。
都内と違い、工場ばかりの町なので夜9時でも人気は少ない。バス停から実家までの約20分を足早に歩いた。人気の無い暗い道に街灯が規則的に並んでいる。
内心、一昨日の事がフラッシュバックしてきてかなり怯えてたが、幸いにも奴は現れなかった。

が、夜になり涼しくなったからか俺は自分の身体の異変に気が付いた。
どうも首の付け根辺りが熱い。 伝わりにくいかと思うが、例えるなら首に紐を巻き付けられて左右にずらされているような感じだ。
首に手をやって寒気がした。熱い。首だけ熱い。 しかもヒリヒリしはじめた。どうも発疹のようなモノがあるようだった。

歩いてられなくなり、実家まで全力で走った。

息を切らせながら実家の玄関を開けると母が電話を切るところだった。
そして俺の顔を見るなりこう言ったんだ。

「あぁ、あんた。長崎のお婆ちゃんから電話来て心配だって。S先生があんたが良くない事になってるからこっちおいでって言われたて。あんたなんかしたの?」

「あらやだ。あんた首の回りどうしたの!!?」

答える前に玄関の鏡を見た。奴が来るかもとか考えなかったな…、何故か。

首の回り、付け根の部分は縄でも巻かれているかのように見事に赤い線が出来ていた。
近づいてみると、細かな発疹がびっしり浮き上がっていた。

さすがに小刻みに身体が震えてきた。
何も考えずに、母にも一言も返事をせずに階段を駈け上がり、母の部屋の小さな仏像の前で南無阿弥陀仏を繰り返した。
そうする他、何も出来なかった。

心配して親父が「どうした!!」と怒鳴りながら走って来た。 母は異常を察知して祖母に電話している。母の声が聞こえた。 泣き声だ。

逃げ場はないと、恐ろしい事になってしまっているとこの時やっと理解した…。

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