1. まとめトップ

鈴木敏文氏(セブン&アイ会長)が教えてくれた商売の極意

流通業の神様とまで称される鈴木氏の功績はここで列記するまでもないが、今回の退陣騒動にも、彼らしさが垣間見えた。それは、業績がいいことと、今のセブンがいい状態であることとは違うということ。彼なりの基準でモノを見てきたその半生を、私なりに復習しておこうと思う。

更新日: 2018年02月05日

2 お気に入り 3673 view
お気に入り追加

この記事は私がまとめました

▼「晩節を汚した」とまで言われた最後

セブン&アイ・ホールディングスの「お家騒動」で、最後には、鈴木敏文会長(CEO)の電撃辞任となった。経営者としての圧倒的な力量と実績をもってこれまで会社を支配して来た鈴木氏を、創業家の伊藤家と現・セブン-イレブン・ジャパン社長の井阪氏サイドが排除したような構図だ。鈴木氏の敗因は、息子を会社に置いたこと、(創業家との)勝負のタイミングが遅かったこと、そして現社長を対外的に批判してしまったこと。鈴木氏はオーナー経営者ではない。年齢もすでに83歳である。しかも今回の一連の経緯は「暴走」と言われても仕方のないものだった

流通業を代表する大企業の意思決定とは思えない実態で、セブングループ中興の祖であり、カリスマ経営者の退任が決まった。その鈴木会長とは、コンビニ事業を日本に初めて根付かせ、かつグループの稼ぎ頭に育てた。当時、スーパーが主流だった小売業界の常識を一変させた。表面的には、鈴木氏の人事案(セブン社長の交代)が否決されたことが原因とされたが、何よりも伊藤創業家と対立してしまったことが真因と言われる。直近では、イトーヨーカ堂の社長人事でも突然前社長が復帰する異例の人事があったばかりだ。鈴木氏の人事案を止めたのは皮肉にも、16年3月に経営の透明性を高める目的で導入した指名・報酬委員会だった

【勝見明氏】鈴木氏の思考法の大きな特徴は、常に未来に起点を置いて発想することにある。だから、過去や現在の延長線上でものごとを考える人々からはなかなか理解されない。今どんなに売れている商品であっても、満足のいくレベルに達していなければ、「売れれば売れるほど、セブン-イレブンの商品はこんなレベルかと失望される」。鈴木氏はそう考え、商品を店頭から即刻撤去させる。今回の社長を退任させる案も、まったく同じ発想から出てきたように思われる。常に「顧客の立場で」考え、「会社の都合は否定されなければならない」という信念なのだ

▼そうは言っても、彼の偉大さに変わりはありません

セブン&アイ・ホールディングスは、創業一族の伊藤家の祖業であるスーパー事業と、鈴木敏文氏が育ててきたコンビニ事業が柱だ。グループ売上高は6兆457億円。営業利益の3523億円の大半はコンビニで稼ぎ出している。コンビニは、1974年に出店した1号店から始まり、80年に1000店舗達成。91年にはライセンス元の米本社を買収するまでになった。01年に銀行設立、03年に10000店舗突破。今日では18500店舗を越えている

鈴木氏の実績は揺るがない。主には:
1)フランチャイズ制の導入
2)ビッグデータ活用と業績の見える化
3)オムニチャネル化の推進

コンビニはアメリカから導入した仕組みではあったが、小型商店の効率化を手伝うという出発点からして違っていた。鈴木氏はそれを丁寧に築き上げ、ついには各店舗で得られる数値の積み上げと活用にも尽力した。従来、KKDH(勘・経験・度胸・はったり)に支配されていた慣習そのものを覆したのだ。また直近では、グループ各社の商品をネットから買えるサービスで180万点にも達する。これを自社物流ルートで実現させた

「お客さんの立場に立って考えること。その一点に尽きます。お客さんに受け入れていただければ、どんな開発もコストが合う」

鈴木会長のこれまでの試みは、その大半にパートナーがいた。もし、開発の段階でそのままの費用を現場にのせていたら、必ずしもうまく行かなかったはずだ。しかし、鈴木氏は試みを前に進めるために、工夫をしつつも妥協は一切せず、時にはパートナーが費用を担ってくれることもあった。「小売現場の素人だった」ことが幸いしたという同氏の言葉は逆に、本質を見抜く力の重要さを私たちに考えさせてくれている

▼セブンイレブンだけがなぜ突出しているのでしょうか

2015年4月の消費増税後も、「新しいもの、食べる物ならおいしいものを作らなくちゃいけない」と言い、実際に成果を上げ続けてきたセブン-イレブン。そして「価格を下げたところがよかったという話は聞かない」とバッサリ。カタチだけ新しくてもダメ、日本制覇的な出店もお客さまには意味がない。お客さまの変化に合わせることが重要、という。プライベートブランド商品(PB)は「ナショナルブランド商品(NB)」に対して安いものとした解釈を勝手にしてしまっている。また、既存店売上が伸びないFC制度もありえない。これを理解しないと、他社はセブンの真似などできない

口を開けば「仮説」と「検証」という言葉がでてくることで有名な、セブン&アイグループの鈴木敏文会長。どこも同じような広さ、同じような什器、同じような品揃えのコンビニ。しかし、店舗あたりの売上高を見ると、セブン-イレブンは67万円と、ローソンの55万円、ファミリーマートの53万円を圧倒している。結論からいうと、商品が買い上げられるスピードが違う。気温ひとつで消費者の気分が変わるのをつかみに行くスピードこそが、鈴木会長の真骨頂だった。同氏曰く「現場に行け」は誤りだという。「多様化」ではなく、「画一化」だと見抜いたのも同氏だ

【鈴木会長の仮説検証力】
1)「本当のようなウソ」を暴き、常識に縛られないモノの見方を獲得
2)成功事例のマニュアル化はダメ、効果が長続きしない
3)(まずは仮設に基づき)実際の店の品揃えに反映させ、その効果を検証

直感や客観的データに基づいて仮説の検証を繰り返し、斬新な仮説を設定する力を高める。これを鈴木氏は、組織に浸透させた。そこで鍛えられた力が、組織としての成功要因だ。鈴木氏は多くの経営者とは異なり、「現場主義」を重視しない。目の前の現象に踊らされることを懸念するからだ。顧客に飽きられやすいコンビニならではだろう。「私はこれが欲しかったんだ!」という驚きこそが、明日の顧客を招き得る。そして、客観的な「データ主義」をただ実践するだけでは、明日の顧客につながらないことも熟知している

▼セブンの強さは、ITなのか、人なのか

流通業界でも最近は、ポイント会員の買い上げデータなどの「ビッグデータ」が注目されている。日本で本格的なPOSシステムを全店に導入したのはセブン-イレブンが最初(1983年)だった。一般的なコンビニは、POSシステムの販売データをもとに、よく売れた商品を売れ筋として発注すると思われがちだが、セブンは異なる。自分で考えて、試して、反省するということを繰り返しているので、人が強くなっていく。ハードやシステムの導入は決して難しくはないが、それを活かすかはやはり人次第だ。また、安くして売るという行為も、結局は安売り競争を招くだけで成果にならないことはすぐ分かるはずだ

結果の集計は、機械を使わなければ効率化できない。そこで、システムを作り込んできたわけです。しかし、それは、POS(販売時点情報管理)を使ったら何ができるか、ということではなくて、どうしたら仮説を検証するためのデータを入手できるかを考えた末にたどり着いた結論にすぎない

システムの専門家は必要以上に巧緻なものを作ろうとする。しかし、そんなものは現場では使えない。作り手は、いろいろなものを追加して、それを付加価値だと説明したがるが、結局、現場を疲弊させ、ミスリードすることだってある。現場がやりたいことに、フィットする。ただ、それだけでいいという鈴木氏のIT視感

▼人が自分の固定観念を覆す作業:それが「仮設と検証」

【勝見明氏の書評より】著者の鈴木敏文氏は、海外を含めたグループ総売上高九兆円の巨大流通企業、セブン&アイ・ホールディングスを率いる経営トップだ。鈴木氏は年4回発行されるグループの広報誌『四季報』で毎回、各界で活躍する著名人をゲストに招き、対談を行う。企業経営者ながら、鈴木氏が多様な分野の人々と“サシ”で対談ができるのは、経済人である以前に“信念の人”だからだろう。その信念もさまざまな鈴木語録で表現される。売り手の立場で「顧客のために」と考えるのではなく、常に「顧客の立場で」考える。真の競争相手は同業他社ではなく変化する顧客のニーズである

まず、固定観念や言い訳は、ビジネスを前進させない。売りない原因を見出し、そこに逆の視点を持ち込むことで、新しい可能性が見えてくる

出典まとめ編者

鈴木氏という人は生粋のアイデアマンだと痛感する。が、ゼロからすごいことを生み出しているわけではない。アメリカからコンビニというビジネスモデルを導入した。しかし、それを日本流にアレンジ。気付いたら、まったく独自のビジネスモデルに仕上げていた。アイデアを積み重ねると、ビジネスモデルになる。ここが、鈴木氏から学べる最大のポイントだ。決して、何らかの理論モデルを、やみくもに導入しているわけではない

セブンプレミアムを始めたとき、コンビニでも、スーパーでも、百貨店でも業種を問わず、全グループで同じ価格で販売するという、かつてない試みを私が発案した。しかし、グループ各社から反対の声があがった。しかし、(コンビニ、スーパー、百貨店といった)区分けは売り手側が勝手に決めつけているだけ。「顧客の立場」で考えるとどうなるか。顧客はセブンプレミアムについて、「この商品は200円を出して買う価値がある」と思えば、どの業種の店舗でも買ってくれる。重要なのは、自分たちの固定観念を否定し、顧客に価値を感じて買ってもらえる商品を開発していくこと

コンビニ業界では、売上減少が続き、「市場飽和」と言われだした。しかし、売上が減るには減る理由があり、その原因を探れば、売れるヒントは見えてくるはず。現に、セブン-イレブンが投入した惣菜シリーズは、働く女性たちの間で大ヒット。コンビニ復活を印象づける結果となった。「飽和」と言うのは、努力の足らない売り手側の言い訳なのだ

1974年に東京・豊洲に誕生したセブン-イレブン。今のコンビニとはずいぶん異なるものだった。開店後、たくさんのアイデアを検証し、積み重ねることで、本家米国とは異なる小売業態へと進化していった。実は、そこには、もうひとつ大きな課題があった。当時、親会社イトーヨーカ堂が直面していた問題の解決策探しでもあったのだ。それは地元商店街といかに共存共栄していくか、だ。当時の鈴木敏文は「中小小売店の不振の原因は、生産性の問題であり、大型店との競争の結果ではない」と語っている。その言葉の通り、セブン-イレブンのフランチャイズ方式による経営近代化を達成した町の小売商店は、再び商売が成り立つようになっている

2013年1月の導入、16,000のセブン全店へマシン設置完了した9月には、2億杯を突破。当初の目標は、1日あたり1店舗60杯だが、直近では約95杯。年間4.5億杯の販売を見込んでいる。ネスレ日本によると、日本の年間コーヒー消費量は480億杯。セブンカフェは登場わずか1年で、日本のコーヒー消費量の1%弱を占めたことになる。リピート購入率55%は、セブンの食品中、ダントツ。缶コーヒー販売は横ばいで、セブンカフェの影響はなかった。三井物産や丸紅から仕入れ、AGFやUCCにコーヒー豆の焙煎を委託。セブンカフェに牽引されて、コンビニ各社全体のコーヒー売上は、7億杯になると言われている

競争社会にると、わたしたちはとかく他社との比較に目を奪われがち。相対的な比較は買い手であるお客様がすることであって、売り手側がすることではない

出典『売る力 ~心をつかむ仕事術』鈴木敏文著

今後は、異業種から突然競争が現れる時代になるという。セブンイレブン自らが、そういう存在として積極的な競争を仕掛けている。たとえば、セブンカフェ。雑誌・書籍。さらにコミック。ビール系飲料やATM利用件数に到るまで、セブンイレブンの日本一は次々と増えている。競合企業の動向にばかり着目していると、徐々にモノマネになりかねない

「セブンイレブン」の店舗内に設置されたATMを運営し、ATM利用手数料が主な収入源となっている『セブン銀行』。ATM利用手数料が主な収入源となっている。ATM設置台数は、ゆうちょ銀行に次ぐ第2位の約19,300台(2013年末)。ATMの1回あたりの受け入れ手数料の単価は約130円で、年間の利用者数は6.98億人。直近では、米国のATM運営専門会社を買収し、米国にもATM事業を新規展開。
※鈴木敏文氏の著書によれば、お金の出し入れなどに限定したATMにしたことで、従来機の四分の一の費用にし、一日一台70人の利用で採算が取れるようにしたという

現実の消費者は経済合理性では割り切れない行動をしばしばします。「消費税分5%還元セール」も、単なる「5%引きセール」だったら、お客様は反応しなかったでしょう

出典『売る力 ~心をつかむ仕事術』鈴木敏文著

消費者は、損失回避の心理が強い。同じ値引きでも単なる5%引きでは消費者が信用してくれない。が、「理由あって安い」なら、消費者は「損をしない」と納得して買ってくれる。この損失回避が最優先となる心理を理解しておくと、陳列の仕方も変わってくるはず。たとえば、大きなフェイスで陳列し、接客や売り方の演出で売り手の自信を示せば、消費者は「買っても損はしない」と納得する

セブン-イレブン・ジャパンの成長力が回復し、他社を突き放しにかかっている。強さの理由は、一定エリアに集中出店するドミナント方式を徹底していることにある。しかし、過去10年以上の間に、他社との差は確実に縮まってきていた。理由の一つは、従来のような好立地の店舗を探すのが難しくなったからだ。東日本大震災を契機に、コンビニの利用者は女性や高齢者に拡大し、1店当たりの平均客数は過去最高を記録しているが、競合他社や異業種なども出店攻勢を強めており、コンビニの飽和感が高まることは避けられない

「ひまわりがブームになっているときには、たんぽぽの種をまこう」、秋元康氏の言葉である。これが売り手の意思というものだ。「売れた」からでも、「売れている」からでもなく、「売れると思う」から発注する。今日の時代は、「どんな商品がほしいか」、顧客自身もわからない。たとえば、「陽気のいい日の釣りの昼食には梅おにぎりがいいのでは」と仮説を立て、手づくりのPOP広告と大きめのフェイス(陳列棚)を獲る。これが顧客の気を引く。その提案(仮説)は、顧客に「おや?」と思わせることが大切で、「予定調和を壊す」ことになる

▼競合は、セブン・鈴木会長をどう見るているのでしょうか

コンビニ大手のローソンは、2015年度通期の連結業績を発表:営業総収入は前年比17.2%増の5834億円。また、営業利益は、成城石井など連結子会社の好業績を反映して同2.9%増の725億と過去最高となった。業界3位だったファミリーマートがサークルKサンクスのグループと経営統合し、ローソンとは立場が逆転してしまった。玉塚社長は、鈴木敏文会長について問われると、「尊敬する経営者の一人。コンビニ業界の原型をつくり、リードしてきたのは明白。小売業に携わった当時、鈴木さんの本をたくさん読んだ」と答えた

▼結局、そのすごさについては、鈴木氏のシンプルな信念があったということです

1 2