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「シリアの少年の勇敢な行動」のビデオは、完全な創作(やらせ)。その経緯を振り返る。

「実際の映像」のように見え、そのように扱われてバイラルした映像が、実は完全な「作り物」…つい人に伝えたくなる「美談」には要注意。制作者の言い分も聞いてみましょう(シリア内戦について、今なお「議論のきっかけ」のためにこういうことをする人がいるということが、個人的には理解の範囲を超えているんですが)。

更新日: 2014年12月06日

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この記事は私がまとめました

nofrillsさん

以下、2014年11月に「ネットで話題」になったこのキャプチャ画像の映像が最初にアップされたころから、バイラルして、ツッコミが入れられて、BBCが検証して、Buzzfeedなどが撮影者に話を聞いて、最後に撮影者(製作者)が謝罪するまでの顛末。

……だけど、その前に、まず、前置き。

※なお、私自身はこの騒動を「デマ」とは呼びませんし、呼びたくもありません。「デマ(悪意のある誤情報)をばら撒きたい人々に貢献するもの」ではありますが、これ自体を「デマ」と断定する根拠(制作者がアサド支持者であるとか、アサドに雇われた広告代理店であるとかいったこと)は、私の見ている限りでは、ありません。

シリア内戦では、「少年が英雄的な行ないをしている」と度々報告されてきた。(※これらは「やらせ」ではありません)

シリアの「蜂起」(「革命」)と、それに対する政権側の暴力的な鎮圧は、それが「内戦」と呼ばれるようになる前から、「現地の人たち(アクティヴィスト)がネットに直接アップした映像」を頼りにするしかなかった。

シリア政府はジャーナリストの入国に厳しい制限を課しており、現地取材も政府の役人の管理下で行われる(BBCのジェレミー・ボーエン記者の報告では、最近は少しゆるくなっているような印象を受けるが、それも「ボーエンさんだから」かもしれない。実際、2年前に出入り禁止になった記者はそれきりシリアには戻っていないし)。つまり、政権側に「都合の悪い」情報はそもそも取材されない。

そこで、シリアでは2011年のいわゆる「アラブの春」で実践された「市民ジャーナリスト、アクティヴィスト」による映像や写真での報告が「主な情報源」となった。(2011年のリビアも同じような状況だったが、シリアはリビアよりさらに組織化されている。)

2012年2月にはホムスに英米仏国籍のジャーナリストが潜入したが、政権側の攻撃で市民ともども彼ら外国人ジャーナリストまで死傷する事態となった。

その後、国連や国際赤十字を含め諸機関が「内戦」と位置づけるようになったころ、「反政権側の武装勢力 rebels」が押さえた場所には、反政権側がわりと積極的に外部の人を入れたので、一時期はかなりの数のジャーナリストがアレッポなどから伝えていたが(故・山本美香さんもそのころにアレッポに入られた)、2012年秋には外国人は拉致されることが多くなり(アメリカ人ジャーナリストで今も消息不明のオースティン・タイスさんや、2014年8月に殺害されたジェイムズ・フォーリーさんなどは2012年に拉致されている)、イスラム主義勢力の伸張とともにジャーナリストも現地には入れなくなった。

このような流れの中で一貫して「市民ジャーナリスト」がネットにアップする映像や写真が、多くの場合はシリアの人々による自主的な報道のシステムを通じて世界に伝えられることが「普通」だった中で、常に「捏造」(フェイク)は問題だった。

よくあったのは、「全然関係のない写真に『シリア』のキャプションをつける」という手法での「デマ」のばら撒きだ。比較的「ばれやすい」フェイクだが、誰かが「それはシリアではなくエジプトの写真ですよ」などと指摘するたびに、情報のネットワークの信頼性は損なわれるので、「デマ」の効果は大きい。それに「以前フェイクの写真だったのだから、今回もそうだろう」という想定をしておくべきという姿勢がかなりの説得力を持つ。その状況下、映像などが真正であるかどうかを検証・確認する手続きも発達し、かなり確立され、シェアもされている。

……ざっくりと、そういうのが前提。

policymic.com/articles/57127… SubhanAllah, a Syrian boy serving in hospitals as a nurse, this boy is a hero, May Allah SWTreward him #Syria

14歳の少年が、病院で看護師として人の命を救うことに献身している、という「英雄的な少年」についての報告が2013年夏に。

Would you like to see a REAL hero? This 17 year old Syrian boy. youtube.com/watch?v=4cOLc-…

アレッポで、17歳の少年がスナイパーの銃撃の中、匍匐前進していって、道路に倒れている人を助け出す。撃ってくる敵に対し、味方が少年の援護射撃を行ない、現場は激しい銃撃音に満たされる。(ビデオの音声がかなりすごいので注意してください。)この現場をCNN記者が訪れて本人に話を聞き、報道したことで、この映像は非常に大きな関心を集めた(私も当時、Twitter経由で見た)。

"@NickKristof: A kid who stood up to #Syria's regime & survived (barely) nyti.ms/18MbtDZ The world can learn!" He is a 12 yr hero!

12歳の少年が、アサド政権に対し立ち上がったことを、NYTのニック・クリストフさんが書いている。

Mohamed a 13 year-old Prince and Hero #Syria... fb.me/UjPXG2uB

アレッポで、政権軍と果敢に戦うFSA所属の13歳の少年兵士。

1 LIKE = REAL HERO! GOD, bless this boy hurt in a Syrian bomb blast. ***Type Yes... dlvr.it/4WHXc0

Facebookにアップ(転載)された写真。病院のベッドに座り、笑顔で両手でピースサインを作る10歳くらいの少年。両脚と両腕と頭は包帯でぐるぐる巻き。爆弾の爆発を生き延びたとある。後方に、ずっと年長の男の人がベッドから上半身を起こしてピースしているのも写っているが、いつ、どこで撮影されたのかはここからは不明。

According to @globalvoices 18 yr Syrian boy dies covering the war for @Reuters: globalvoicesonline.org/2013/12/24/mol… #photojournalism #ChildrenofSyria

アレッポで、写真家としてロイターと契約していた18歳のMolhem Barakatさん(17歳とも言われていた)が、アル=キンディ病院での政権側と反政権側との戦闘を取材中に死亡。

(この「英雄的な少年」の死以降、国際メディアは「現地の少年を取材者として最前線に送り込むようなこと」をしなくなった。また、2014年8月に米国のフリーランス・ジャーナリストのジェイムズ・フォーリーさんがISISに残忍な見世物として殺されたあとは、フリーランスを使うことも控えるようになっている)

Hero donkey evacuates Wounded Syrian boy into Israel liveleak.com/view?i=174_141… pic.twitter.com/Dpo2vmqSQU

検索結果に出てきたので一応入れておくが、これは「英雄的な少年」ではなく「少年を運んだ英雄的なロバ」。

※ロバちゃんはいい仕事をしたし、ロバちゃんにはこのツイートの責任はないんだけれども、こういうことをいちいちツイートするアカウントの中には「あの国のあの連中は残忍である」という情宣もあるので(このアカウントはそうではないと思います)ご注意ください。

Twitterで、syrian hero boyで検索すると、これらのようなツイートが表示される(上記は私のフィルターバブルの中で表示された検索結果だが、このワードは、ワード自体が偏っているので、誰が見てもあまり変わらないのではないかと思う)。

銃撃戦ではなく、爆弾投下で子供が人助けをした話(瓦礫に埋まった人を救出、など)は、あまりに「ありふれたこと」になっていてツイートすらされてこないくらいだ。父親や兄が戦闘で死んでしまったり、政権が何万人と拘束・拷問している人の1人になってしまったりして、子供が家族を支え、守るためにまさに「ヒロイックな」ことをするしかない立場に置かれている例も無数にある。

また、上にも出てきているが、武装勢力で戦っている子供の話もある(10年前は「子ども兵士」というと誰もが眉をひそめ、口々に何とかしなければならないと言い募るような「問題」だったのに、今はその存在すら語られない)。ISISが、子供が自爆攻撃を行ったとソーシャルメディアで賞賛しているのを見たこともある。武装勢力が賞賛している「英雄的な少年」には、外国から戦いに行った少年もいれば、アレッポ生まれの少年もいた。

それが完全に「日常化」しているなかでのことだ。

2014年11月、第一次世界大戦が始まってからちょうど100年という節目の年の「戦没者追悼の赤いポピー」(英連邦でのシンボル)のニュース(写真参照。9日のリメンブランス・サンデーから11日の休戦記念日まで)を詳しく追って見ていたときのことで、私はリアルタイムでは気づいていなかったが、このタイミングで、新たに「シリアの英雄的な少年」のビデオが、ネットにアップされて話題になっていたらしい。

上と同じくsyrian hero boyで検索すると、次のようなツイートが出てくる。

2011年11月10日、また「シリアの英雄的な少年」のビデオがアップされていた。

SYRIAN HERO BOY rescue girl in shootout. SEE THIS youtu.be/cceu478rN_c

私に見つけることのできる最初のツイートはこれ。今まで見たことのないアカウントで、レバノンの人のようだ。私がフォローしているシリア人のツイッタラーさんたちが何人かフォローしている。ツイートはざっと見る限りアラビア語ばかりだが、これは英語。

Unbelievable: Syrian boy, hero, despite being shot, saves a girl from Assad regime snipers!! youtu.be/cceu478rN_c #Syria

続いてこのツイート。アバターにトルコの国旗があるが、トルコ、レバノンで活動するリサーチャーさん(専門は中東とイラン。つまり石油関係)。私がフォローしている中東関係の人が何人もフォローしている。

この2件のツイートにあるYouTubeの映像は、現時点(11月19日)では既に削除されている。

映像のタイトルは "SYRIA! SYRIAN HERO BOY rescue girl in shootout. SEE THIS!!" で、説明には "Watch this!! Boy from Syria is getting shots but saves a little girl. Syrian hero boy for us. Unbelievable!!" とある。

タイトルも説明も英語とアラビア語の2言語表記だ。ここには、「真正な映像ではない」ことを疑わせる情報は見て取れない。

それどころか、SEE THIS!! (字義通りには「これを見てください」だが、キャッチコピーとしては「現実から目をそらすな」というような含意がある)とまで言っている。

▼今は削除されているこのビデオは、「シリアのニュース」の拡散の流れに乗っていた。

Watch "SYRIAN HERO BOY rescue girl in shootout ا…" on YouTube - SYRIA! SYRIAN HERO BOY rescue girl in shootout ا…: youtu.be/mgwO6oni-wY

現在(11月19日)、私が検索して見つかる3番目のツイートがこれ。このビデオは現時点では削除されていない。YouTubeのShaam News Networkのチャンネルにアップされている。

これが繰り返し繰り返しツイートされ、「拡散」している。

Shaam News Networkというのは、2011年3月の「蜂起/革命」のときに立ち上げられた活動家のネットワークだ。シリアは元から外に対する情報の出口が閉ざされていて、「蜂起」に際しては最初から「一般の有志のネットワーク」が強力だった。

Shaam News Networkは、元の映像のタイトルから末尾の "SEE THIS!!" を取って、 "SYRIA! SYRIAN HERO BOY rescue girl in shootout" としてアップしている。

YouTubeのページを見ると、「説明 description」が丸々削られ、Shaam News Networkの連絡先情報だけになっていることが確認できる。Shaam Newsが削ったのか、削られた状態で送られてきたのかはここからはわからない。

投稿ビデオの受付のメールアドレスがあるので、見た人は「このビデオはShaam Newsに投稿されたビデオなのだな」と察することはできるが、その「察し」が正しいのかどうかもわからないし、元の映像にあった情報が添えられていないので、見る者にはそれ以上のことはわからない。

映像がいつ撮影されたもので、この「勇敢な少年」がどこの子なのかもわからない。アレッポか? ダマスカス近郊か? デリゾールか? それともコバニか?

この時点で、「フラグ立ちまくり」である。

それに、少年がフレーム内に出てくる前に、建物から中年男性が逃げ出す場面があるのだが、その建物の出入り口の脇にあるドラム缶は「シリア政権側」の色(白黒に赤)をしているが、この三色がこんな順番で塗られている例はあるのだろうか。あるいは、私が見たことがないだけだろうか。などなど。

しかし「善意の人々」、または「善意を装った人々」による衝撃映像の「拡散」は止まらない。「衝撃映像」ではあるが流血もないので、ツイッターで自分の観察結果を書き添えたり、「考えさせられる」などと独り言を述べたりして記録しながら同時に人に伝えるだけでなく、「ちょっと見て、これ。すごい映像だよ!」と誰かに伝えるにもためらいはなかろう。

SYRIAN HERO BOY (not older than 10 yrs) rescues little girl in sniper shootout الطفل السوري البطل - YouTube youtube.com/watch?v=mgwO6o…

Shaam News Networkのビデオ

SYRIA! SYRIAN HERO BOY rescue girl in shootout. S…: youtu.be/cceu478rN_c #سوريا #syria #usa #assad_crimes @SyriaTweet @FJparty @AJArabic

オリジナルのビデオ(今は削除されているもの)

SYRIA! SYRIAN HERO BOY rescue girl in by pretending that he was shot by sniper . SEE THIS!! الصبي السوري البطل... fb.me/1BocaB02e

オリジナルのビデオ(削除済み)

最初に映像がアップされてからおそらく24時間以内に、このように「草の根」で拡散していくのは、シリア内戦のビデオでよくあるパターンだ。しかし、何らかの信頼性の裏づけがある場合に見られる動きがあったかどうかはわからない(あったのが削除されているのかもしれないし、元々なかったのかもしれないし、単に私の環境では表示されていないだけかもしれない)。つまり、報道機関や、シリア内戦をずっとウォッチしているサイトによる言及がないのだ。

しかしここでも「シリアだから」という要素が絡んでくる。本当に衝撃的な映像であれば5時間くらいの間にはどこかが反応していそうなものだが、シリア内戦では、もはや大手報道機関がこのような「細かい」映像に反応することはほとんどない。その映像の真正性を確認する術もなく、はっきりしない映像をメディアが取り上げることでより多くの人を危険にさらしかねないのだからしかたがない――そういうバイアスが見る側にあるので、「報道機関がどこも取り上げていない」ようなことがあっても、特に不思議には思わないだろう。(それ以前に、「大手が報じない」ことは、「大手はなぜ報じないのか」とはもう誰も言わないくらい当たり前でもある。)

そしてここでついに大手が出てくる。

Syrian 'hero boy' appears to brave sniper fire to rescue terrified girl. Watch: fw.to/UAzaXER pic.twitter.com/YezK2hHqiL

英デイリー・テレグラフ。appears to ... という表現で断定を避けているが、Watchと書き添えて映像を見るようツイートの読者に呼びかけている。

これが150件くらいRTされている。

Amazing video of a boy in Syria running through sniper fire to save a girl youtube.com/watch?v=mgwO6o… via @Josiensor fw.to/UAzaXER

そのあとも「拡散」は続く。AFPの@Alex_Ogleさん(香港)が、「英デイリー・テレグラフの@Josiensorさん(米サンフランシスコ)経由」でツイートしている「驚愕映像 amazing video」は、Shaam News Networkの映像。

#WATCH: Incredible moments as Syrian 'hero boy' appears to brave sniper fire to rescue terrified girl indo.ie/E6sL2

アイルランドの大手新聞、アイリッシュ・インディペンデントも、appears to ... で断定を避けながらWATCHと呼びかけ、incredible momentsと「驚愕映像」を推す。

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