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人間失格 あらすじ解説【太宰治】

破滅してゆく意志の弱い男の人生を、自分自信の人生体験と重ね、さらに天皇の歴史の物語を内蔵しています。日本文学史上最高の表現力を持つ作品、それが太宰の「人間失格」です。

更新日: 2019年05月12日

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太宰治の代表作「人間失格」は、意思の弱い人間の破綻の物語として知られています。
太宰治は自分自身の心中事件とからめて、最後に廃人となる絶望的なストーリーを描きました。
しかしそれは表の顔です。
裏を深読みしてみましょう。

この作品は、日本と天皇の歴史を、
一人の人間の物語として描いているのです。
とてもユニークな、二重構造の小説なのです。
(作者の太宰治自身の人生も重ねていますから、三重小説とも言えます)

その物語のクライマックスは、
原爆投下と、
御前会議での御聖断です。

人間失格、第三の手記から引用します。

***
「お前は、喀血したんだってな」
堀木は、自分の前にあぐらをかいてそう言い、
いままで見た事も無いくらいに優しく微笑ほほえみました。

その優しい微笑が、ありがたくて、うれしくて、自分はつい顔をそむけて涙を流しました。
そうして彼のその優しい微笑一つで、自分は完全に打ち破られ、葬り去られてしまったのです
***

これが、原爆投下を表しているのです。
太宰治の文学的才能の極致ともいえる言い換えです。

そして、御前会議での御聖断が下ります。天皇が終戦を決断したのです。太宰は御聖断も、独特の文章で表現します。
精神病院に入院することになり、妻が身の回りの品を持ってくるのですが、

***
ヨシ子は着換の衣類をいれてある風呂敷包を自分に手渡し、それから黙って帯の間から注射器と使い残りのあの薬品を差し出しました。やはり、強精剤だとばかり思っていたのでしょうか。

「いや、もう要らない」

 実に、珍らしい事でした。すすめられて、それを拒否したのは、自分のそれまでの生涯に於いて、その時ただ一度、といっても過言でないくらいなのです。自分の不幸は、拒否の能力の無い者の不幸でした。すすめられて拒否すると、相手の心にも自分の心にも、永遠に修繕し得ない白々しいひび割れが出来るような恐怖におびやかされているのでした。

けれども、自分はその時、あれほど半狂乱になって求めていたモルヒネを、実に自然に拒否しました。ヨシ子の謂わば「神の如き無智」に撃たれたのでしょうか。自分は、あの瞬間、すでに中毒でなくなっていたのではないでしょうか。
***

これが、御聖断を表します。

拒否の能力を持たない天皇が、初めて自然に拒否しました。戦争というモルヒネの継続を。

いきなりの奇抜な解釈で驚かれたでしょう。
順を追って説明します。

1,全体の構成

小説「人間失格」は

はしがき
第一の手記
第二の手記
第三の手記
あとがき

の5章からなりたちます、
真ん中三つの手記は、作者がバーのマダムからもらったものという設定になっています。
表面的には弱い性格の男性が破滅してゆく話として書かれていますが、深く読めば、日本と天皇の描写をしていることが読み取れます。

第一の手記は、おそらく日本書紀などの内容が散りばめられているのでしょうが、
いまひとつ明快ではありません。

第二の手記は、鎌倉時代から日清戦争、その後の三国干渉までの日本の歴史、

第三の手記は、日英同盟から太平洋戦争終戦までの日本の歴史です。
この二章はかなり明快に歴史を参照するかたちで書かれています。


人間失格という言葉は第三の手記の最後に出てきますが、
もちろんこれは天皇の人間宣言に対応しています。

以下に構成表を置きます。クリックしてご覧ください。

全体の構成表です。

私にも不明な点がいくつかありますが、
第二の手記以降はほぼこれでよかろうと思っています。

一度プリントして手元に置きながら「人間失格」を読まれることをお勧めします。

大きな一国の歴史を一人の人間の履歴として描く、大変な力量ですし、素晴らしい着想です。

名家の生まれ、心中事件、革命運動への参加、薬物中毒などは全て太宰自身の実体験です。ですからこれを自伝的小説と見る向きが多いです。しかしその更に裏に、日本の歴史が描写されています。ものすごい筆力ですね。

2、第二の手記

重要な点のみかいつまんで説明します。

竹一という不気味な同級生が居ます。
鉄棒を失敗して人を笑わせる主人公に、竹一がわざとらしさを指摘します。

***

竹一が自分の背中をつつき、低い声でこう囁ささやきました。
「ワザ。ワザ」
 自分は震撼しました。ワザと失敗したという事を、人もあろうに、竹一に見破られるとは全く思いも掛けない事でした。自分は、世界が一瞬にして地獄の業火に包まれて燃え上るのを眼前に見るような心地がして、わあっ! と叫んで発狂しそうな気配を必死の力で抑えました

***

この竹一は、

「顔も青ぶくれで、そうしてたしかに父兄のお古と思われる袖が聖徳太子の袖みたいに長すぎる上衣を着」

ていたと書いています。

聖徳太子の肖像です。

そして主人公の未来を予言するのですが、
聖徳太子には「未来記」という書物があります。

出典senjp.com

さて本文に戻って、
鎌倉、室町、江戸の幕府を、
下宿の女性と例えているのは秀逸ですね。
日本で最初にメガネをかけたと言われているのは、
足利幕府の第十二代将軍、足利義春です。

天皇家が武家政権に「下宿」していた、と表現しているのです。太宰のこういう言い換え、ユーモアがあって絶妙です。

その後主人公は社会に出ます。
出会うのは堀木という都会人、彼がアメリカなのです。
アメリカから世間というものを教わるのです。
それまで鎖国していましたから。

ツネ子と心中事件を起こして、自分だけが生き残ります。
この事件は太宰自身の体験に基づくもので、
本名田部シメ子という、広島出身の女性ですが、
日清戦争の時の大本営は、広島にありました。

ここで太宰は、日本と清という、当時の国際社会では弱い物同士の戦争を、
主人公とツネ子という、貧乏なもの同士の心中に置き換えています。

そして清国が負け、日本が勝ち残り、
ツネ子が死に、主人公は生き残ったのですが、
日本は三国干渉という列強の圧迫を受けます。

太宰は、警察と検察の取り調べ、という表現で表しています。

3、第三の手記

ヒラメという、父の知人の老人が居ます。
ヒラメのような顔をしているから、ヒラメです。
海の生きものですから、海洋帝国、イギリスを表しています。

堀木と
悲劇と喜劇、同義語と対義語に関する議論をします。
ここのみがおそらく、歴史とも天皇とも全く関係の無い場所です。
太宰はここで、この小説全体を、文字通りの意味で読むな、と言っています。
裏読みをしろ、との作者からのサインです。

そして満蒙開拓(処女のヨシ子との結婚=処女地満州の開拓)があり

二二六事件(雪の東京での喀血=クーデター)があり、

そして冒頭に説明した、原爆投下、敗戦のシーンになります。

全編通じて、戦争を女性との関係として描くことが多いです。

4、歴史のピーク

その最後の、原爆投下近辺のことを考えてみましょう。

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