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【閲覧注意】死ぬ程洒落にならない怖い話【かんひも】

【閲覧注意】死ぬ程洒落にならない怖い話【かんひも】

更新日: 2015年10月21日

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この記事は私がまとめました

usagiman63さん

かんひも

僕の母の実家は、長野の山奥にある。信州新町という町から奥に入って行った所なんですけど。僕がまだ小学校3年生くらいの頃だったかな?

その夏休みに、母の実家へ遊びに行ったんですよ。そこは山と田んぼと畑しかなく、民家も数軒。交通も、村営のバスが朝と夕方の2回しか通らないようなところです。

そんな何もないところに例年だったら行かないんですが、その年に限って仲の良い友達が家族旅行でいなくて、両親について行きました。

行ってはみたものの…。案の定、何もありません。

デパートやお店に連れて行ってとねだっても、一番近いスーパーでも車で1時間近くかかるため、父は「せっかくのんびりしに来たんだから」と連れて行ってくれません。

唯一救いだったのは、隣の家に僕と同じ年くらいの男の子が遊びに来ていたことでした。あの年頃は不思議とすぐに仲良くなれるもので、僕と K(仮にK君とします)は、一緒に遊ぶようになりました。

遊ぶと言っても、そんな田舎でやることは冒険ごっこや近所の探検くらいしかありません。

1週間の予定で行って、確か3日目の夕方くらいだったと思います。午後3時を過ぎて、日が落ち始めるころ。夏とはいえ、西に山を背負っていることもあるのでしょうか。田舎の日暮れっていうのは早いもんです。

僕とKは、今まで入ったことのない山に入っていってみました。はじめは人の通るような道を登っていたのですが、気が付くと獣道のような細い道に入っていました。

「あれ、なんだろ?」

Kが指差す方を見ると、石碑のようなものが建っていました。

里で見る道祖神ののような感じで、50センチくらいだったでしょうか。だいぶ風雨にさらされた感じで、苔むしていました。

僕とKはよく見ようと、手や落ちていた枝で苔や泥を取り除いてみました。やはり道祖神のような感じでしたが、何か感じが違いました。

普通の道祖神って、男女2人が仲良く寄り添って彫ってあるものですよね?

でも、その石碑は、4人の人物が立ったまま絡み合い、顔は苦悶の表情。そんな感じでした。

ぼくとKは薄気味悪くなり「行こう!」と立ち上がりました。

辺りも大分薄暗くなってきており、僕は早く帰りたくなっていました。

「なんかある!」

僕がKの手を引いて歩き出そうとすると、Kが石碑の足下に何かあるのを見つけました。

古びた4センチ四方くらいの木の箱です。半分地中に埋まって、斜め半分が出ていました。

「なんだろう?」

僕は嫌な感じがしたのですが、Kは構わずに木の箱を掘り出してしまいました。

取り出した木の箱はこれまた古く、あちこち腐ってボロボロになっていました。表面には何か、布のようなものを巻いた跡があり、墨か何かで文字が書いてありました。

当然読めはしませんでしたが、何かお経のような難しい漢字がいっぱい書いてありました。

「なんか入ってる!」

Kは箱の壊れた部分から何かが覗いているのを見つけると、引っ張り出してみました。

なんて言うんですかね。ビロードっていうんでしょうか?

黒くて艶々とした縄紐みたいなので結われた腕輪のようなものでした。直径10センチくらいだったかな?

輪になっていて、5ヶ所、石のような物で止められていました。石のような物はまん丸で、そこにも訳の分からない漢字が彫り付けてありました。

それはとても土の中に埋まっていたとは思えないほど艶々と光っていて、気味悪いながらもとても綺麗に見えました。

「これ、俺が先に見つけたから俺んの!」

Kはそう言うと、その腕輪をなんと腕にはめようとしました。

「やめなよ!」

僕はとてもいやな感じがして、半泣きになりながら止めたのですが、Kはやめようとはしませんでした。

「ケーーーーー!!!」

Kが腕輪をはめた瞬間に、奇妙な鳥かサルのものような妙な鳴き声がし、山の中にこだましました。気が付くとあたりは真っ暗で、僕とKは気味悪くなり、慌てて飛んで帰りました。

家の近くまで来ると、僕とKは手を振ってそれぞれの家に入っていきました。もうその時には、気味の悪い腕輪のことなど忘れていてのですが…。



電話が鳴ったのは夜遅くでした。22時を過ぎても、まだだらだらと起きていて、

母に「早く寝なさい!」と叱られていると、

「ジリリリーーン!」

けたたましく、昔ながらの黒電話が鳴り響きました。

「誰や、こんな夜更けに…」

爺ちゃんがぶつぶつ言いながら電話に出ました。電話の相手はどうやらKの父ちゃんのようでした。

傍から見ていても、晩酌で赤く染まった爺ちゃんの顔がサアっと青ざめていくのが分かりました。

電話を切った跡、爺ちゃんがえらい勢いで寝転がっている僕のところに飛んできました。

僕を無理やりひき起こすと、

「A(僕の名)!!おま、今日、どこぞいきおった!!裏、行きおったんか!?山、登りよったんか!?」

爺ちゃんの剣幕にびっくりしながらも、僕は今日あったことを話しました。

騒ぎを聞きつけて台所や風呂から飛んできた、母とばあちゃんも話を聞くと真っ青になっていました。

婆「あああ、まさか」

爺「…かもしれん」

母「迷信じゃなかったの…?」

僕は何がなんだか分からず、ただ呆然としていました。父もよく訳の分からない様子でしたが、爺、婆ちゃん、母の様子に聞くに聞けないようでした。

とりあえず、僕と爺ちゃん、婆ちゃんで、隣のKの家に行くことになりました。爺ちゃんは、出かける前にどこかに電話していました。

何かあってはいけないと父も行こうとしましたが、母と一緒に留守番となりました。Kの家に入ると、今まで嗅いだことのない嫌な臭いがしました。

埃っぽいような、すっぱいような。今思うと、あれが死臭というやつなんでしょうか?

「おい!K!!しっかりしろ!」

奥の今からは、Kの父の怒鳴り声が聞こえていました。爺ちゃんは、断りもせずにずかずかとKの家に入っていきました。婆ちゃんと僕も続きました。

居間に入ると、さらにあの臭いが強くなりました。そこにKが横たわっていました。

そしてその脇で、Kの父ちゃん、母ちゃん、婆ちゃんが必死に何かをしていました。

Kは意識があるのかないのか、目は開けていましたが、焦点が定まらず、口は半開きで、泡で白っぽいよだれをだらだらと垂らしていました。

よくよく見ると、みんなはKの右腕から何かを外そうとしているようでした。それは紛れもなくあの腕輪でしたが、さっき見た時とは様子が違っていました。

綺麗な紐はほどけて、よく見るとほどけた1本1本が、Kの腕に刺さっているようでした。

Kの手は腕輪から先が黒くなっていました。その黒いのは、見ていると動いているようで、まるで腕輪から刺さった糸が、Kの手の中で動いているようでした。

「かんひもじゃ!」

俺の曾爺ちゃんの話を書いてみようと思う。

と言っても、曾爺ちゃんは俺が物心付く前に死んでしまったので、爺ちゃんに聞いた話なのだけれど…。

更にそれを思い出しながら書くので、辻褄合わせとかで多少脚色もするがご勘弁。

俺の曾爺ちゃんは坊主だったらしい。というか、曾爺ちゃんの代まで坊主の家系だったそうだ。

そんでもって、曾爺ちゃんは霊感があったらしく、除霊やら鎮魂やらで何かと有名だったらしい。

でも、ありがたい崇高な霊力者とかって感じではなく、変な能力はあるけれども、普通の多少目端の利く人だったようだ。

そんな曾爺ちゃんには、人伝で何かとオカルトチックな依頼が来るらしい。それで旅に出て家を空けることが多く、爺ちゃんも寂しい思いをしていたようだ。

いつも曾爺ちゃんが旅から帰ってきたら、土産話を要求するのだが、曾爺ちゃんは、大抵当たり障りのない話ばかりをしていたそうだ。

まあ、怨念やらの絡みになると、色恋沙汰や依頼者の恥部となる話になるのだから、口は堅かったのだろう。

前置き長かったけど、数少ない旅の話の中から、坊主を辞めた原因になった時の話。



そんな曾爺ちゃんに、ある日どっかの地方から、羽織袴の名士っぽい人が訪ねてきた。曾爺ちゃんは見た目で『祟られている』って判ったらしいが、そんな事はおくびにも出さずに、応接間に通して何事かと聞いてみたらしい。

その人は「某県の何処其処で何々をしています誰々です」みたいな話を丁寧にはじめ、話し口から、名主っていうか纏め役みたいな家系って曾爺ちゃんは感じた。

その時に曾爺ちゃんにお願いしたのは、不幸な死に方をした女性の供養って位だったそうだ。曾爺ちゃんは、この人は隠し事が多いなあなどと思いながら、多少身の危険を感じたらしい。

霊的な危険って言うより、殺しとかにこの人の家の者や知り合いが関わったのが原因じゃないか、と感じたそうだ。それだと、場合によっちゃ自分の身も危険だし。

取り敢えずその人には、多少準備がかかるし疲れたでしょと言って、3日ほど家に泊めて、その間に、その地方の議員さんやら親分・警察署長あたりの名前を調べ、知人に紹介して貰って実際に電話したりして、繋ぎをつくったりしたそうだ。なかなか世俗チックな曾爺ちゃんだと思う。

そんな対人の下準備の後は、今度はそれなりにも準備をして「じゃあ行きましょうか」って事で、その人の案内で地方に向かったそうだ。

地方に着いたら、「そう言えば○○先生はここに居られるそうだから挨拶したい」とか何とか言って、先に手を回しておいた議員やら署長やら親分に挨拶に行き、自分に変に手を出したら後々厄介ですよーって臭わせておいてから、その人の家に行くことにしたそうだ。

その人の家は、街から外れて幾つか山を越えた山間の村で、村に近づくにつれて嫌な感じが強くなってきたので「これは村ごと祟られているな。女一人を供養して済むのかね?」って思ったらしい。

村に入ると、出会う人がどいつもこいつも祟りの影響を受けている。流石に曾爺ちゃんも、村ぐるみの事件っぽい臭いがしてきて嫌になってきたが、こんな辺鄙な場所から逃げ出すのも大変だと思い、一応その人の家で詳しい事情を聞いてみることにした。

その人の家は結構大きかったらしく、屋敷という感じで、曾爺ちゃんの『村の纏め役っぽい』って予想は当たっていたらしい。

庄屋の家系の当代ってところ。屋敷は門に入る前から恨まれている感じが臭いまくっており、かなり業の深いことをしてしまった家系だと思いながら、家に入ったそうだ。

部屋に案内されて改めて話を聞くと、供養して欲しい女性は3名。曾爺ちゃんは、屋敷の人間がその3名の死因に関わっていると思ったので、その辺は深くは聞かずに、村に何か起こっているのか聞いてみた。

どうやら村では、殺人が連続して起こっているらしい。しかも、事件や犯人を警察に届けていない。犯人は土蔵に閉じこめたり納屋に縛ってあったり、死因も事故死・病死って事にして、医者に見せずに土葬にするなど、かなりヤバイ感じの処置をしていた。

現代なら死体遺棄や不法逮捕監禁で引っ張られるようなやり方をするからには、村人を外に出したくない理由があると思えること。

曾爺ちゃんは突っ込み所が多すぎるのをグッと我慢して、まずは犯人の一人に会って見ることにした。

多分この屋敷にも居るのだろうが、当代に案内されたのは、屋敷から少し離れた農家の納屋だった。

納屋の中はジメっとして、糞尿の臭いが酷く、中には怯えた感じで縮こまっている女性が一人柱に縛られていて、曾爺ちゃんは、憑かれていたなって思ったらしい。

曾爺ちゃんは、この女性はもう危険じゃないことを教え「暫く安静にしていたら今より良くは成るだろう」って言った。

そして、殺したのは多分旦那か子供だなと感じて、可愛そうに思ったそうだ。さらに、この人への祟りはもう終わっているが、多分完全に治ることは無いだろうって思えたらしい。

曾爺ちゃんは「供養はするが、あなた方は供養でどうにかなると思っているのかね?」って話したらしい。

しかし、他に当たっても、祟りがあってからは供養さえ怖がってしてくれないから、お鉢が回ってきたらしく、どうしても供養はして欲しいって事で、曾爺ちゃんは供養することにした。

お墓の位置は、村外れの山道を進んで行った山にあるらしく、昔はそこに寺があったが、廃寺となった後は、そのまま村の墓地として利用しているとのこと。

案内されてそこに近づくにつれて悪寒がしてくるし、案内していた当代はどんどん顔色が悪くなってくる。

これは半端じゃないって思い、とりあえず墓の方向に向かって経をあげて様子を見たが、どうにもならない感じなので、ある程度の道筋を聞いて当代を帰したそうだ。

当代に活を入れて返した後に暫く進むと、何かとすれ違った。曾爺ちゃんには姿は見えなかったが、多分彼女らの誰かだろう。

その気配は当代を追うわけでもなく、また、自分を追う様にも感じなかったので、気を落ち着けながら先へ進むことにした。

山の斜面を這うように進む山道を歩いて行くと開けた場所があり、斜面に沿って卒塔婆や墓石が並んでいるので、ここがその墓地だろうと感じて中に入った。

すると、多くの盛り土の墓の内に、この墓がそうと分かるくらいの存在感がある墓が3つあったらしい。

曾爺ちゃんはそこで経をあげて供養を試みたが、ずっと空気が重く、どっからか視線をずっと感じる。

『無理だな~業が深い』と思って、屋敷まで引き上げる事にした。

屋敷まで戻った曾爺ちゃんは、当代に「供養試みたが、このままでは祟りは収まらない」と言った。

そして、

「あなた方は業が深いので、言えないことも多いと思う。

3人を死なせたのにも関わっているだろう。しかし、祟りが無かったものが何故祟る様になったのか、何でも話せる事があれば言いなさい」

と言ってみたそうだ。

当代も言い辛かっただろうが、話した内容はこうだった。父に当たる先代は、乱暴で狡猾な人物だったそうで、若い頃から問題ばかり起こしていたそうだ。

それでも、先々代が存命の内はまだマシな方で、先々代が亡くなると、素行に歯止めが効かなくなった。

多くの村人を巧妙に利害で巻き込みながら悪事を繰り返し、村では誰も逆らうことが出来なくなってしまったそうだ。

祟っている3名の死にも、先代は関わっているらしい。それから先代は、3年前に実の妹に殺害された。

多分これが、最初の祟りじゃないかとのこと。そして祟りで死ぬ前に、あの3名の女性と関わりのある男に罪を着せて殺している。もちろん私刑だ。それ以来村では、身内や血縁者を殺してしまう事件が時々起こるようになった。

曾爺ちゃんはこの話を聞いて、その殺された男をまず供養しないとこの祟りは収まらないと思ったらしく、墓の場所を訪ねた。

当代の答えは「墓はない。埋めただけになっている」と話し、埋めた場所に次の日に行くことになった。

曾爺ちゃんは、その晩は屋敷には泊まらなかった。明日の事を考えたら、ここで気力を消耗したくないって気持ちになったらしい。



次の日、当代と村の男数名に案内されて、その男の埋まっている場所に出かけると、そこは村はずれの藪の中だった。

ジメジメと腐った枯れ草が覆い被さり、枯れ草の隙間から育ちが悪い感じの雑草が生えている。

そこに高さの余りない盛り土があり、近くには申し訳程度の供え物が朽ちていた。

曾爺ちゃんは「ちゃんと埋葬し直して供養しなといけない」と当代に言って、掘り返させた。

大して掘り返さないうちに死体は現れ、出てきた死体はやはり普通の状態ではなく、無惨に切り刻まれていて、五体ばらばらどころか、肉片がいくつも出てきたらしい。

ただ不思議な事に、3年前に死んだはずの死体は、腐敗せずに湿り気を帯びていたそうで、曾爺ちゃんは『呪物になっているな』と感じたそうだ。

この辺の詳しい理屈は、爺ちゃんには分からないらしいが、多分殺された男は3名の女性を弔っていた者で、そのことで3名の霊的な干渉を良くも悪くも受けていた。

しかし殺された後は、本人の無念も重なって、3名の祟りの呪物化したのではないか、という感じの話をしていた。

とにかく曾爺ちゃんは、男の遺体から頭髪の一部を切り取った後は、全てカメに詰めて埋め直し、経をあげて供養した。

供養といっても、成仏させた訳ではないらしいが、成仏させる訳にもいかなかったので、その地で安息できるように色々したようだ。

頭髪の一部を切り取ったのは、業が深すぎる件なので、関わった自分への祟りも有ると思い『この男を、自分も供養しないと危ない』と思ったかららしい。

曾爺ちゃんは、当代にこんな注意をして別れたそうだ。

・あなたの直系は、子々孫々まで男の命日の供養を欠かさないこと

・3名の墓を除いた墓地にある他の墓を、村の近くに移すこと

・墓を移したら、誰も3名の墓に近づかないこと

・祟りや3名の霊が現れることがあったら、男の墓に供物を捧げ助命の願をかけること

曾爺ちゃんは村にはあまり長居したくなかったそうで、旅費位にしかならない報酬を貰った後は、来た時と同じように地元の議員さんやら有力者に挨拶を済ませてから、一人で家に帰った。

そして、家族に男の髪が入った箱を見せて、この話をしたそうだ。もし自分が祟りで倒れた場合に、この髪の供養を続けて貰わなければならないから。

この件で、曾爺ちゃんが坊主を辞めなくてはならなかった理由は、曾爺ちゃんがやった方法は、呪い返しに近い方法であって、それがお偉いさんに知れた時に、世話になった上司の立場をかなり悪くしてしまったからだそうだ。

何か歴史物では、お偉い坊さんが権力者に頼まれて呪ったりする話があったりするが、下端の坊主が何かすると厳しいのかな?

呪いの連鎖(長編)

呪いって本当にあると思うだろうか。

俺は心霊現象とかの類は、まったく気に留める人間じゃない。だから、呪いなんか端から信じていない。呪いが存在するなら、俺自身この世にはもう居ないはずだから。

自分自身で書くのも嫌になるが、今までもの凄い数の人たちを傷つけてきた。さすがに人を殺すような事はしてこなかったが、何人もの女の人生を台無しにしてきた。

ヘルス嬢になった奴。ソープ嬢になった奴。そしてAV嬢。こんな俺だから、もし呪いが存在するなら、俺は生きていないはず。

そんなくだらない俺にでも、心から信頼出来る友達がいた。今から書く話はそいつの話。



今から1年半程前に、俺は友達に呼び出された。その時はお互い仕事が忙しく、会うのは約3ヶ月ぶり位だったと思う。呼び出された場所に向かうと、俺よりも早く友達のAがいた。

「おー早いじゃん」

俺はそう言ってAに話しかけた。

笑いながらAは

「たまには早くくるさ」

そう言い終わると、Aの顔から笑みが消えて行った。

いつもなら飲みに行って話をするのだが、何となくその日はそんな雰囲気ではなかった。笑みが消えた後のAの顔が、それを物語っていた。

「どうしても聞いて欲しいことがあるから、家に来てくれないか」

Aの顔に全く余裕が感じられない…。

「何かあったのか?」

俺の問いにAは、

「家で話すわ」

そう言い終わると、足早にその場を離れた。

Aの自宅に着き、Aは話し始めた。

「兄貴が仕事中に死んだ」

そう聞いた俺は

「えっ兄貴は2年前に死んだんじゃなかったの?」

と思わず聞き返した。

「2年前に死んだのは長男。今回死んだのは次男なんだ」

言葉が出てこなかった。

仕事中の事故死らしい。Aの次男が勤めていたのは、ある大手タイヤ工場だった。その工場で、主に工作機械のメンテナンスをする仕事をしていたそうだ。

作業後のメンテナンスのために整備していた所、大型の工作機械が突然作動し、その機械に頭部を挟まれAの次男は亡くなった。即死だったそうだ。

それを聞かされて俺は、Aに対して余計に何も言えなくなった。

「2年前に、上の兄貴が事故で死んだときもおかしかったんだ」

長男の事故の話だった。

Aの長男は家族3人で、移動中に大型トラックに正面衝突を起こしていたのだ。

「あの時も即死だった。3人ともな」

Aの顔は、何かに怒っているように見えた。

その事故は、片側2車線の道路で起こった。現場検証では、Aの兄が反対車線に入り走行した事が原因とされていた。

トラックの運転手の話では、よける間も無いくらいの出来事だったらしい。Aの言う妙な事とは、突然車線を変えたのもそうだし、ブレーキペダルとフロアの間に、猫が入り込んでいた事だそうだ。

当然その猫も生きてはいなかった。

「ぶつかる寸前にブレーキをかけたんだろうけど、間に猫がいて効きが悪かったのかもしれない。効いてても回避する事は出来なかったんだろうけどさ」

「猫なんか飼ってなかったのに」

それを聞いて俺は

「途中で拾ったのかもしれない」

そうAに言うと、

「それは絶対にない。猫嫌いだもん」

しばらくAは黙っていた。俺は少し気を紛らわせてやろうと思い、買い物に行きビールなどを調達してきた。買い物から戻りAにビールを渡し、話の続きを聞いた。

「俺これで天涯孤独になっちゃった」

Aはそう呟いた。Aの母親は幼稚園の頃に亡くなり、父親は4年前に亡くなっていた。

もう家族で残されたのはA一人だった。Aの表情はとても寂しげに映った。その表情が突然変わり、Aは俺に聞いてきた。

「なー呪いって信じる?」

思わず呆気にとられてしまった。

「たまにテレビでやってる、木とかにこんこん釘打ったりするやつ?」

俺はあり得ないという表情で答えてやった。俺のそんな答えに動ずることなくAは喋り始めた。

「兄貴二人。そして父親も、呪いで死んだのかもしれない」

そこからその話は始まった。



Aは幼少の頃の話を聞かせてくれた。そこは普通の田舎町で、これから話す不可思議な事件が起こりそうな場所ではなかったらしい。

Aの実家の近くには、子供心に相手にしたくない家があったそうだ。ただ単純に、その家のおばさんの見てくれがもの凄く怖かった、というのが理由だそうだ。

野球をしているときに、たまたまボールがその家の庭先に入ってしまい、しかたなく挨拶をしてボールを取ろうとした時に、そのおばさんに鎌を持って怒鳴られたそうだ。

そんなこともあり、その家は子供にとっては恐怖の対象でしかなかった。

小学2年の頃、夜中に我慢が出来なくなりトイレに起きた時の話では「ザク、ザク」と物音が聞こえてきて、トイレの小さな窓から覗くと、そこには鎌を庭にある大きな木に向かって、何度も突き立てるおばさんの姿があった。

とにかく、その光景があまりにも怖すぎて、その晩は寝ることも出来なかったらしい。

翌日、学校に向かう途中で恐る恐るその木を確認すると、確かに無数の傷と大きな釘が一本刺さっていたそうだ。

子供の頃は、ただ単純に怖かっただけなんだけど、今思えばあのおばさんには同情するところはかなりある。

その家の主人はもの凄い酒乱で、毎晩のように飲んでは暴れていた。あの当時は精神的にかなりまいっていたんだろう。

Aはそう言いながら話を続けた。

それから数ヶ月が過ぎ、最初の事件が起こった。下校途中にAと3人の子供達が、あの家の大きな木の下に、人が倒れているのを発見した。

4人で最初は寝てるのかとも思ったらしい。それでも気になって、他の子が親を呼んで確認させたところ、すぐに救急車が呼ばれた。

倒れていたのは、その家の主人だったそうだ。すでに息はなく、死因は心臓発作との事だった。近所の人の知らせで、農作業に出かけていたおばさんも呼び出され、すぐに病院に向かっていった。

子供だったAは震えていたそうだ。死体を見た恐怖と、あの晩のおばさんの奇妙な行動が重なって、余計に怖かったらしい。

それから、おばさんは人が変わったように明るくなっていた。前とは比べられない程に。でも、おばさんの笑顔は長くは続かなかった。

その家には二人の息子がいたが、二人ともその家にはいなかった。次男は人柄もよく真面目で、結婚をして家を構えていたのだが、長男は父親に似て酒乱がたたり、定職にもつけなかった。

父親が死に、母親の面倒を見るという名目で、長男は家に戻ってきた。おばさんにとっては、今まで以上に辛い日々になっていったのだそうだ。

昼間から酒を飲んでは母親に暴力を振るい、近所から何度注意されても直る事は無かった。母親に対する暴力に、次男も何度も抗議に来ていたようだ。

数日が過ぎた晩、Aは家族で食事をしていた。

すると玄関を激しく叩き、父親を呼ぶ声がする。声の主は、隣に住むお姉さんだった。

「向こうの木の下に人が倒れている」

そう言ってお姉さんが震えていた。すぐに父親が確認に向かった。

そして確認して戻ると救急車を呼び、子供達に一歩も家を出るなと言い残して、また出ていった。

しばらくして救急車が来て、騒ぎは大きくなり始めた。窓越しに確認すると、今度はパトカーまで来ていたそうだ。その騒ぎは一晩中続いた。



翌日の朝、殺人事件が起こったことを知った。

殺されたのは、あの家の長男だった。鍬で頭部をめった打ちにしての殺害だった。めった打ちにした場所は家の裏だったらしいが、最後の力を振り絞って、人の目に触れるあの大きな木の下までたどり着いて、そこで息絶えたらしい。

家にいたおばさんが自分がやったと証言したため、おばさんは警察に連れて行かれたが、翌日の昼間に次男が出頭してきて、おばさんは家に帰された。地元の新聞では大きく報道されたそうだ。

次男の判決はさほど重くはならなかった。動機が母親を助けるためだったのと、周りの証言や、もしかしたら嘆願書も出ててたかもしれないらしく、刑は思いのほか軽く済んだそうだ。

次男の刑が確定したその日、おばさんは家の木で首を吊って自殺した。Aは学校にいたため、事件が起こったことは家に帰るまで知らなかったらしい。

その家では、2年ほどの間に3人も人が死んでしまった。

あの事件が起こった後は、その家には誰もいないはずなのに、それ以来その家の前を通るのを止めて、大回りして家に帰るのを選んだそうだ。自宅の玄関からも見える家なのに。

事件から5年くらいが過ぎた頃、あの家の次男は刑期を終えて戻ってきた。近所の家を謝罪して回っていた。

Aの家にも訪ねきた。父親が対応して

「苦しかったね。これから頑張るんだよ」

そう声をかけていた。

元からの次男の性格を知る近所の人達は優しかった。次男も一生懸命に働き、以前の暮らしを取り戻そうとしていた。

次男の妻も真面目で、主人が逮捕された後も別れることなく、帰って来る日を待ちながら家を守り続けていた。

2年後、そんな二人に子供が出来た。近所の人たちはみんな喜んでいた。生まれてくるまでは。産まれてきたのは男の子だった。でもその子は心臓に障害を持っていた。

それから次男は、その子の手術のために、今まで以上に働いた。子供を助けるために。それでも間に合わなかった。男の子は生後半年で、この世を去ってしまった。

それから2ヶ月後、奥さんは焼身自殺をしてしまった。後を追うように、次男はあの木で首吊り自殺をした。近所中に重い空気が流れて、やがて良くない噂が流れ始めた。

あの木があると、これからも良くないことが起こるのではないか。木を切り倒した方がいいのでは。みんなが口々に、木のせいにし始めていた。それでも、誰も木を切ろうとはしなかった。

しばらくして、自殺したおばさんの遠縁にあたるという男二人がやってきて、

「自分たちがこの木を処分します」

と言ってきてくれた。

念のためにと二人は御祓いをしてもらい、それからチェーンソーを使ってあっさりと切り倒してくれた。

かなり大きな木だったこともあり、倒した後に細かくするのに時間がかかってしまい、根の部分は後日にするということだった。

それから数日が経っても、根が掘り返されることは無かった。

木を切り倒した人の一人は、酒に酔い3メートル程の側溝に頭から落ちてしまい、脳挫傷で死亡。

もう一人は、噂では農作業中にトラクターが横転し、下敷きになり死亡したと聞いたそうだ。

Aが高校を卒業して町を離れる頃にも、まだその根は残っていたそうだ。



俺とAが出会ったのは、同じ専門学校でのことだった。Aとはそれ以来の付き合いになる。Aは俺とは違い、頭も良く性格も良かった。

そんな奴だから、就職にも困ることはなかった。俺と違い、Aはすぐに就職した。

Aが就職してからも、俺たちの付き合いは続いた。会うたびに女のことで説教をされていた事を、今でも思い出す。

就職して3年ほど経過した頃だろうか。それはあまりにも突然だった。Aの父親が心臓発作で他界した。

Aが言うには、病気など患った事などなかったから、もの凄くショックを受けたらしい。

Aが実家に大急ぎで帰った時、既に二人の兄が帰って来ており、通夜の準備に追われていたそうだ。

それから数日が経ち、葬儀も終え、3人は久しぶりに実家で酒を飲んだそうだ。その時に長男が、二人の弟に語りかけた。

「二人ともあの家の木を見たか?」

そう言われてAは、次男と顔を見合わせて

「何のこと?」

長男に聞き返した。

「根っこだけ残ってた木のことだよ」

そう言われて二人は、あの木のことかと思い出したらしい。長男は続けた。

「もう更地になってるんだよ。そして、あの木の根を掘り出したのが親父なんだ」

それを聞いて、Aの中で眠る忌まわしい記憶が蘇ってきた。次男はいきなり、怒気を強めて長男に食ってかかった。

「ふざけるな。じゃあ親父は、あの木に祟られて死んだっていうのかよ。ただ掘り返しただけで祟られるのか。馬鹿げてるぞそんなもん」

しばらくみんな黙っていた。

Aは疑問に思ったことを口にした。

「なんで親父は木の根を掘り返したんだろ。兄貴は何か聞いてない?」

その問いに対して、二人の兄は首を振るばかりだった。長男は首を振りながら、

「掘り返した理由は俺にもわからん。だけど掘り返した後、親父は突然死んだ。どうしても俺には、偶然には思えないんだ」

次男は、

「兄貴やめてくれないか」

そう言って話を遮ろうとしたが、それでも長男は話を続けた。

「昨日さ、夢に親父が出てきたんだ。俺を見ながら、何度もすまないすまないって言うんだよ」

それを聞いた次男は、

「何で兄貴の所だけに出て、俺たちの所には出ないんだよ」

Aを見ながらそう語りかけた。

その問いに対して長男から出た言葉に、二人とも驚いたらしい。

「次は俺なんじゃねーの。だから親父は、俺に謝りに来たんだろ」

二人はそれを聞いて押し黙った。その日はそれ以上、そのことを3人とも語ろうとはしなかった。



その後、長男の言った一言によって、3人は今まで以上に連絡を取り合うようになったそうだ。

父親の死後1年9ヶ月経った頃、突然長男と連絡が取れなくなった。次男からもその連絡が来た。家に電話をしても、嫁さんすら出ないとの事だった。

次男は不審に思い、長男の勤める会社に電話したそうだ。会社から返ってきた言葉は意外だった。1ヶ月ほど前に突然退社したと聞かされた。

二人はすぐに長男の自宅に向かった。何度呼び鈴を鳴らしても、誰も出てくることはなかった。不審に思ったのか隣の住人が出てきて、話を聞いてくれた。

すると隣の人は笑いながら、

「3人で旅行に出かけるって言ってましたよ」

そう教えてくれた。二人にはどうしても納得がいかなかったらしい。何で俺たちに何も告げずに出かけるんだ? あれだけ密に連絡を取り合ってたのに。

それからすぐに二人は、行きそうな場所として実家に向かった。主の居なくなった家にたどり着いたが、そこにも3人の姿は無かった。

それから2日後、二人の元に警察から連絡が来た。長男一家が事故死したと言う知らせだった。事故の原因は、先に書いた通り不可思議なものだった。葬儀が終わっても二人は押し黙っていた。

しばらくして二人は、長男一家の家の整理に追われた。家の片付けをしている時に、Aは長男が残したであろうメモ帳を見つけた。

そこには奇妙なことが書いてあったらしい。

『俺が何をした』

その言葉が、何ページにもわたって書き綴られていたそうだ。

最後のページには、

『俺と○○ そして○○ これで3人だ。もう終わりにしてくれ』

次男とAの名前が書かれていた。

それが最後のメモだった。

次男にそれを渡し、Aは押し黙った。それを見た次男は、

「兄貴は神経質すぎたのかもしれない」

そう言い終えて、次男も黙りこくってしまった。

Aは心底おびえたそうだ。馬鹿にする次男を無理に誘い、祈祷師やらその手の除霊専門の所を、何ヶ所も回ったらしい。

細かく書けば、本当に凄い量になってしまう。だからかなりはしょってるから、勘弁して欲しい。



長男が亡くなって2年経ち、次男が事故死した。そしてその話を俺は聞かされた。呪いと言われても、俺にはどうしてもピンとこなかった。

その話を聞いた後、俺はAに話し出した。

「なあA。もしさ、呪いが存在していたら、俺は絶対に祟られてるよ。お前も知ってるよな。俺が今まで、色んな女にしてきた仕打ち。

お前が知らない話だってある。それこそ、いつ夜道で刺されてもおかしくないくらいだ。

刺されないにしても、相当恨まれている事は確かだと思う。現実に呪いが存在するんなら、俺はもう死んでるはず」

でも俺がどんなに語ろうが、Aの周りでは不可解な事が起きているのは事実。俺自身が一つずつあれやこれや説明しても、納得するわけもなく、話は平行線を辿るだけだった。

Aは俺と話した後に、すぐに所持していた車を処分した。

「車で事故なんて嫌だし」

Aは苦笑いしながらそう言っていた。

それからしばらく、何事もなく過ぎていった。その間も、俺とAはちょくちょく会っていた。会って食事したり飲みに行ったりしてた。

しばらく会ってないなと気になり始めた時に、Aから連絡が来た。

『病院にいて暇だから、見舞いにでも来てくれよ。話もあるし』

それを聞いて俺はすぐに病院に向かった。

病室に入りAの姿を見たときは、もの凄くショックだった。別人かと思うほどやせ細ったAがそこにいた。

動揺していることを悟られたくなかった俺は、

「個室なんてえらい豪勢だな」

と笑って語りかけた。するとAは、

「俺これでも結構金持ってるんだよ」

笑いながら答えてくれた。

俺は病気のことは全く無知だからよく知らないが、進行の早い癌だと説明された。余命3ヶ月。あまりにも突然の宣告だった。

Aは話を続けた。

「呪いだよ」

そう言い放った。俺はすぐさま

「あるわけない」

と食ってかかった。

Aも言い返す。

「じゃあ偶然にも俺たち家族は、こんなにも短期間の間に全員が死ぬのか!」

Aの目は怒りに満ちていたと思う。

話す内に冷静になったAは、

「お前に頼みがあるんだ」

「俺は出来ることは何でもしてやるから」

そう言った。今になれば、その言葉は言うべきではなかったと後悔している。

Aの頼みとは、彼女の事だった。Aは学生の頃から、Bという女と付き合っていた。Aの彼女だから、俺もよく知っている間柄だった。

本当に良い子なんだ。Aにはお似合いの彼女だった。

「Bの事なんだけどさ。お前、あいつを口説いてくれね」

それを聞かされた瞬間、俺は呆気に取られた。Aが言うには、病気のことを彼女に話した所、

「今すぐに結婚するんだ」

って言われたらしい。

呪いのことは、気が引けるらしく言えなかったそうだ。まあ、言ったところで聞く耳もつ女では無いと思うが。

俺は呆気に取られながらも言い返した。

「俺にも好みはあるんだよ。自己主張のきつい女には興味はない」

それでもAは、

「お前以外にそんなこと頼める奴いないんだよ」

「そりゃそんなアホなこと頼めるのは俺ぐらいだろうけどさ、それは無理な話だ。俺が俺のままの性格でBの立場でも、別れないと思うぞ」

そう言ってたしなめた。

「もしBが俺と結婚したら、どうなると思う?」

Aはそう俺に問いかけた。

「辛いかもしれないけど、本人が望むことなんだから仕方ないだろう」

そう答えるしかなかった。

「結婚して呪いがそのままBにかかったら、俺は死んでも死にきれない」

Aの言葉は切迫していた。

納得行くわけはない。

それでもAが呪いに拘るのであれば、Bと話してみようと俺は思った。俺自身は呪いは否定している。それでも、これだけ続くと正直怖い。

俺が別れさせ無かったことが原因で、Bの身に何か起こったら。そう考えると、たまらない気持ちになった。

俺はそれからすぐに、Bに連絡を取った。強引に時間を作らせ、会う予定を入れさせた。久しぶりに会うBの顔は、見るからに疲れていた。お互い笑顔など無かった。

「Aの事なんだけどさ」

そう切り出した。Bは俺の話を遮るように、

「別れる気はないから」

その言葉に、俺は次の言葉を見失った。それでも何とか平静を装いながら、

「いきなりそれかよ」

そう言ってBの顔を見た。

Bの目は真っ赤だった。Bにしてみれば、俺が何の話をしに来たのか、大体は想像ついていたんだろう。Aの代弁を頼まれて来たのだろう事を。しばらく二人は黙っていた。

「別れることはもう出来ないよ」

いきなりBが切り出した。

「そりゃそれだけ長く付き合ってたんだから、仕方ないさ」

俺はそう返した。

「そんなんじゃないよ」

Bは続けた。

「子供が出来たんだ。あの人の分身が、この中にいるの」

そう言ってBはお腹をさすった。

俺はその言葉を聞いて、頭の中が真っ白になった。

さらにBは、

「子供が出来たことを彼に伝えれば、もしかしたら病気も治るかもしれない」

涙を流しならBは言った。

その言葉を聞いて、俺は我に返ったのだと思う。

「今のあいつには絶対に教えるな」

その言葉にBは切れてしまった。

店の中だと言うことも忘れて、二人で言い争った。程なく店員に注意された。

それでも口論が収まることはなく、結局話は平行線のまま、店を追い出されてしまった。店を出て歩きながら、俺はBを説得する方法を考えていた。

歩きながらBに聞いてみた。

「そもそも何年間付き合ってきたんだよ」

「これだけ長く付き合ってきたのに何で今、妊娠するの?」

「避妊はしてたんだろ」

俺自身が疑問に思ったことだった。さらに、聞きづらい事だとは思ったが、俺は続けた。

「出来たのが分かったって事は、あいつが入院する前にやったって事だよな」

本当にひどい聞き方だ。

Bは答えてくれた。

「今まではちゃんと避妊してたよ」

Bは続けた。Bの話を聞いていくと、俺は寒気を覚えた。

4ヶ月くらい前に、変な夢を見たんだそうだ。3日間、夢は続いた。最初に見た夢は、会った事もない男性で、何度も同じように

「すまない、すまない」

と言い続けていたらしい。

会ったことのない人なんだけど、何となくAに似ていたそうだ。次に見た夢は、亡くなる前に紹介されていた次男だった。

同じように

「ごめんね」

と何度も言われた。そして最後に見た夢は、A本人だった。何度も振り返りながら、手を振っていたそうだ。

その夢を見て嫌な予感がしたらしく、結婚を急がなければと感じたらしい。

以前から、結婚の話になるとAは消極的だったらしく、いきなり結婚話をしても変わらないだろうと思い、それなら妊娠してしまおうと考えたそうだ。

でも、妊娠したのが分かる前にAは入院してしまった。Bはこうも言っていた。

「あの夢は、この事を伝えたかったんだと思う。だから、子供が出来たことを知れば、必ず直ってくれるよ」

頭がおかしくなりそうだった。

「今日はもう遅いから明日また話そう」

と、Bを家に帰した。



その日は一晩中、寝ることは出来なかった。何が最良なんだろう。自問自答を繰り返して出た答えは、Bに呪いの話を告げることだった。

翌日は、Bを俺の家に呼んで話すことにした。こんな話は外では出来るわけもない。体のことも心配だったし。

Bと話をし、すべてを教えてあげた。何人もの人が死に、そしてAの家族が亡くなり続けていることも。夢の話や、細かい事もすべて話した。

Bはため息を付きながら、

「言えないよね、呪いなんて」

そう言った。

「それが結婚に踏み切れない理由だったんだね」

Bは泣いていた。

俺はBに言った。

「あいつが呪いを信じてる以上、妊娠のことが分かれば、100%堕ろせと言ってくるだろう。もしBが生む覚悟なら、絶対に言うな」

Bは、

「あの人の性格を考えれば言えないよね。でも堕ろさないよ」

涙をこらえながら言うBを見て、俺は泣けてきた。

その後に俺たち二人は、これからのことを話し合った。人の人生をこれだけ真剣に考えたのは、俺自身初めてのことだったかもしれない。Aの病が奇跡的に治ってくれれば、どれだけいいだろう。

それから俺は、暇があればAの元に見舞いに行き、Bともよく話をした。Aの病状は一向に良くはならなかった。2ヶ月も経たないうちにAは危篤状態に陥った。

持ち直すことなくAは他界してしまった。俺が駆けつけた時には、既にAの体からは温もりは消えていた。

Aは、自分が亡くなった後のことをよく考えていてくれた。Bに保険のことや遺産のこと、俺とBに葬儀のお願いや後の処分方法など。

Bに宛てた手紙。俺とBに宛てた手紙。そして俺に宛てた手紙。俺とBに宛てた手紙には、もの凄く感謝の込められたものだった。Bに宛てた手紙も、同じようなものだったらしい。

ただ、俺個人に宛てた手紙は違っていた。その手紙の内容は、Bに見せられるようなものではなかった。



Aが亡くなって半年ほど経った。もうすぐBは出産する。無事に生まれてきてほしい。何事も無く成長してほしい。

ひたすらそう願うしかない。俺は、Aの残した遺言で今も悩んでいる。なんでこんな物を残したんだ。Aの残した手紙の中には、俺とBの婚姻届が同封されていた。そしてAの残した手紙。

『Bのお腹に居る子供は俺の子供ではない。お前の子供だ。だからお前は、責任を取ってBを幸せにしろ』

Aは、子供が出来ていたことに気づいていたのだ。だからって強引に俺の子供にするなよ。お前なりに考えたことだろう。

きっと、呪いの事で頭がいっぱいになっていたんんだろう。お前の気持ちはよく解る。でもこれはないだろう。

最後にAはこう綴っていた。

『頼むからBを幸せにしてくれ。頼むからこの願いを叶えてくれ。もし叶えてくれなければお前を呪う』

Aの身の回りで起きたことは、偶然だと俺は思いたい。Aが呪われる必要は、何一つなかったはずなんだから。

もしかしたら、これは俺自身が招いたのかもしれない。今までしてきたことの罰なのかな。

渦人形(長編)

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