正直に白状すると、軍縮会議の結果については、アメリカ海軍の首脳部の予想に反したことが二つあった。
その一つは、アメリカが提案すべき各国海軍の比率をどう決めるかであって、これが外部に漏れることを極端に恐れて、代表部内のごく少数の者がその議に加わった。
現在保有している軍艦を基準にしてソロバンをはじくと、五・五・三即ち十・十・六にはならない。日本は少し足りない。三ではなくニ半か二・七だったのだろう。この小数点以下をどうするかについて、盛んに議論が起きた。
すると国務長官のヒューズ氏が、そんな細かい理屈を言ってはいけない。日本もいい気持で、会議に参加しようといってやって来るのに、二半だの二・七だのというのは、それは現状に即した理屈かもしれないが、大局からいって、政治上はなはだ面白くない。これは四捨五入して、五・五・三で行こうと強く主張したので、海軍側もやむを得ず、それに従った。
そしてこれで行けば、日本の海軍もアメリカの好意を喜ぶだろうと思った。
ところがいざとなると、日本海軍は米国主張の比率案に憤慨した。とにかく日本の利益を計った提案が、日本の恨みを買うようになろうとは、実に意外であった。

出典外交五十年 (中公文庫BIBLIO)/中央公論新社 名分話 第329回 ハルとグルー(10)|メモ垣露文

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