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歌人・工藤吉生が作る『未来』の短歌とは?

短歌は5.7.5.7.7.の31音からなります。 工藤吉生(くどうよしお) ツイッターID@mk7911 の作った、歌誌『未来』に掲載された短歌をまとめました。自分で。

更新日: 2017年08月04日

mk7911さん

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『未来』2017年8月号に掲載された短歌

「ひしゃげた気分」

バスケットボールを持たぬバスケットボール選手がレジを通った

記入済アンケート用紙が落ちている来店理由は「気分」だという

メーデーのシュプレヒコールはオレの行くほうへと同じ速さで動く

オレよりも微妙に遅い歩行者を追い抜くためのスピードアップ

イメージは実物よりもきれいだなひしゃげたえびフィレオで手を汚す

ポケットに手を入れている全身を入れられるならそうするだろう

中年はだいたいかっこわるくってガブリと潜る水色毛布

最近は自分の頭皮を夢に見るうすうすと朝しらじらと朝

無理にでも鏡の前で笑うクセついてるオレを誰も見るなよ

風邪かなあどうかなあってやっているうちに桜が散ってしまった

『未来』2017年7月号に掲載された短歌

「ウケる」


地上から地下へと降りて電車に乗り地上へのぼれば目的地です


悲しみはリュックサックを背負うのか背負って昼の電車に乗るか


まるいベンチでみんなスマホをひからせて空から見れば一輪の花


コンビニでコピー機ごちょごちょやっている男を見たよ春の散歩道


「ウケる」って一度言われたそのことが思い出になり胸あたためる


神田川かと思ったら梅田川あなたは忘れてオレも忘れた


カーテンにまもられている一室はクリーム色に灯って浮かぶ


浅い川 底がいくらか見えていて寝苦しい夜ゆううつな朝


自動車の車内ライトのうすぐらさ五歳くらいの頃から好きだ


ぴかぴかをことごとくぼろぼろにする時間の黄ばみ、ひどく不潔な

『未来』2017年6月号に掲載された短歌

「歯医者で読むアインシュタイン」



歯の痛み十段階に分類し八で歯医者に電話をかける


伝記漫画「アインシュタイン」読んで待つ 赤子にアルベルトと名がついた


アルベルト・アインシュタイン「象はなぜジャンプできないの?」と父に問う


〈この恋は実りませんでした〉の文字と冬の枝から葉の落ちる絵と


アルベルトの結婚式の最中にオレの名前が遠く呼ばれた


真っ白な天井とライトのみによる視界閉ざして口あけている


抜歯後のガーゼ噛みしめじくじくと河原で喧嘩したことはない


のみぐすり二種類もらいポケットにこぶしふたつを隠して帰る


通院は二度で終わってアルベルト・アインシュタイン戦争の途中

『未来』2017年5月号に掲載された短歌

「仙台市営地下鉄」


休日の朝の空気はいいもんだバスプールに聞こえるハングル語


近づくとビョワンとエスカレーターはオレ一人のため全段うごく


ながいながいエスカレーターに運ばれて死んだ直後のような気持ちだ


才能と努力みたいなことかなあエスカレーターを走る革靴


父親は子を抱き上げて地下鉄のレール二本をよくよく見せる


親切ということにしておきましょう監視カメラが変に大きい


人形であってもわからないような運転手のいる列車へと乗る


駆け込みで乗ろうとしたが間に合わぬ人の顔見る加速しながら


CGの涙ぼちょぼちょ落ちているLOTO6の吊り広告に


つり革に頭ぶつけて立ち上がり男は冬の駅に降り立つ

『未来』2017年4月号に掲載された短歌

誰も見てなければ頬にある肉を動かしてみるまだ笑えるよ


モンテスキュー、よかったな女子高生がさっきお前のこと言ってたぞ


ほう、犬の服が光っていることで安全性が高まっている!


一口をかじったら具がみんな出てやがて具のないオレのバーガー


なめんなよぶちかますぞと頑丈な壁を背中でズンと押しやる


歩道橋の上で出くわす細長い影の誰でもどうだっていい


リセッシュの隣に置いたファブリーズ仲の良くない夫婦のようだ


殺人を三度おこない夢なのでうやむやになりパン食っている


出勤にスナック「愛」を通過するつらく別れた人の名前だ

『未来』2017年3月号に掲載された短歌

予備校をのぞいてみるに勉強に必要なのは白色である

右からはラ・カンパネラ左からラップ聴こえる日常の昼

出したくない四千円をさしだすと野口英世は同一の顔

ぶっ飛ばすとテッペイ君に言われたよ痛くないならぶっ飛びたいな

あきらかに・まぶたのつもりで・一匹の犬を・閉じてる人・おるよねえ

「いちご」って答えて急に恥ずかしくなった中学一年のころ

エスカレーターの手すりをむっと見ていると汚れがあって気にすればなる

千円札二十一枚持っていて消費者になりたい是が非でも

待ってなきゃいけないものがあるようでふすまに描かれた草を見る夜

『未来』2017年2月号に掲載された短歌

「無音」

登校の中学生がわめき立つ「今日って席替えじゃん!」そりゃいいな

うすあおく追いかける者逃げる者蝶の世界に食い逃げあるか

つらすぎて笑っちゃうよというふうに朝の車道を枯葉ふらつく

通販のサイト見ている妹の背中しなやかアニマルに似る

ケーキ屋のケーキをおいしく見せるのは下からの白い照明とみた

厨房から客の様子を知るための窓であろうかタオルが見える

スーパーを出れば夜空の冷え込みのヘッドライトの風のしずけさ

ボロいなと思い見ていた住宅の中からワッと笑いごえ立つ

葬儀屋の内側で鳴るピアノだろう通過車両の音にまぎれて

まがまがしい力渦巻くパトカーの赤が無音で夜を照らせば

『未来』2017年1月号に掲載された短歌

ひとすじの飛行機雲がのびてゆき秋のあおぞら完全となる


警官が近づいてきてオレの持つ夢想とびちる日暮れの街に


暮れかけの芝生に犬と飼い主はとどまっている時間とともに


日の沈むほうへ歩いて太陽のスパートにあう 秋のはじまり


内側の疲れほぐしている道を簡易トイレは運ばれてゆく


帯分数は習う必要ないという意見も載ってこども新聞


光源のせいで三つの影を持つ自分に慣れて中年になる

『未来』2016年12月号に掲載された短歌

「ろうろうぬ」



ダン! ぱからなからぱくなるたくらむぬさかさきさくぞ ダン! ささくなむ


ろうろうぬ。ぬろになぬなるあむらにのおうろもろにのおう、ろうろうぬ。


すす ヲヲヲ なにもしらない すすヲヲヲ わから ない すすヲヲヲいわない


デらるらねドろドぬダらぬドダるるねもうしないって言ってるでしょう!?


ふあんだよブアヌナヌナロくらやみはミヤノヤラグモけてすざげずげ


まーあちゃんごあいさつして(すざげずげ)ほらまーあちゃん(けてすざげずげ)

『未来』2016年11月号に掲載された短歌

「カメラ目線」


扇風機は首を動かしオレよりも猫が涼しくなる角度まで


置いてから雑誌の表紙の人物のカメラ目線をひっくりかえす


自販機のペプシコーラに汗だくの頬で触れたよ青春みたく


ころがっている空き缶さ、ねえ君さ、そろそろそういうのはやめないか


色合いで子供用だとわかるのだこどものいろはあざやかないろ


拳銃を持ってるんだという顔でまさぐっているポケットの空(くう)


警戒の顔をしている店員で会計をする罪悪感よ


注意され、注意されたくないことがわかる返事をしてはずかしい


現実の虫のわずかが部屋中に虫の蠢く悪夢を見せる


詩歌詐欺 詩歌詐欺詐欺詐欺詐欺詐欺詐欺詐欺詐欺詐欺詐欺詐欺詐欺詐欺

『未来』2016年10月号に掲載された短歌

「全力の声」


灰色とにぶい緑の取り合わせを良いと思った帰りの道で


トラックに積まれた土砂をまじまじと見て納得に似た胸の内


とりたてて急ぐ用事のない道のうしろから鳴る濃いクラクション


真似をしているのではなく平凡なオレの出しうる全力の声


とりあえず「だって」と言ってみたものの特に言い訳できることなし


絶対に猫はインターネットでは非難されない エサをあげます


「しね」とのみ書かれた『お客様の声』事務所にあってチラッとは見た


人間を金に変換したならば金の流れるおもしろい店


実行犯射殺の裏で指示をした者の昨夜も今晩も無事

『未来』2016年9月号に掲載された短歌

もう五月なんて言ってるうちにもう六月なんて言ってるうちに


ひげそりのひりひりとして今日一日耐える痛みのまずは一つ目


くもりぞら ここから今日が始まるというんじゃ先が思いやられる


よく見てはいないがきっと犬だった繋がれて四つ足のハアハア


工藤さんは何を食べてもおいしいと言う、ってだってそうなんだもの


孫どころか子も妻もなく取り出した定規で背中がしがしと掻く


眠ったと思った人が起きていた頬杖の上に目がカッと開(あ)く


気がつけばすごい技術のフルートの曲が流れてまだ人を待つ


じゃれあって下校してくる三人の近づけば金銭の話だ

『未来』2016年8月号に掲載された短歌

「メン子ちゃんゼリー」



啜り終え午後の五月のメン子ちゃん透ける容器の凹凸ころぶ


複雑な遊びらしくて遠ざかるオレにこどもの声のくどくど


本物の道草だった男の子ふたりが草をちぎり駆け出す


すごろくで一回休みになった子の不満をオレはもう感じない


歯の抜ける夢はよく見るけど今朝のやつは三位以内に入る


からだには傷がないけどこころにはあると笑っているいつまでも


マネキンに並んで立ってみたオレのどうせおんなじだろって顔だ


教科書の表紙みたいにおとなしい森林とその上の空、雲


行く道に聴いたピアノの帰りには店内BGMと気づいた


筋肉を初めてテカらせた人とそれを真似した大勢のひと

『未来』2016年7月号に掲載された短歌

「体でふさぐ」


カーテンをズシャッとひらくああ朝のさえない霧のかかる五丁目


やらないでいるとますます先鋭になってゆくギャグ胸中のギャグ


宣伝のためのうちわが置いてある四月のくさい部屋に肘つく


どうしても言われたくない欠点を見ない見せない体でふさぐ


順調にかわいがってたはずの手に噛みつく猫のキバの見事さ


そうならんようにしねェと成り立たん。金の話だ、なくなるカネの


母親に無理にやらせたファミコンを思い出す十九時に目覚めて


見下ろしてみても真っ暗だけれどもきびしい水の音が呼んでいる

『未来』2016年6月号に掲載された短歌

「泉ヶ池」


切実がオレには足りてなさそうだ体温38度の仮病


階段のとなりにエスカレーターがあって気楽ないきかた選ぶ


休館の図書館のぞくかたむいたオレを映すなこの窓ガラス


泉区の泉公園内にある泉ヶ池に今朝のしずまり


完全な敗北 ドバと広がった草のかたまりつい見てしまう


プレートに名前が書いてありまして「芝生広場」と呼べば正しい


東京に行って頑張りたいなどと聞こえるベンチにまどろんでゆく


風が出て泉ヶ池にうすうすと恋の予感のようなゆらめき


行き先を知らず昇った石段の上でがっかりして降りてきた


遊ばれる形で置いてある岩が思い出させる古い知り合い

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短歌をつくっています。未来短歌会彗星集所属。雑誌、新聞に投稿。第57回短歌研究新人賞候補。
ゴールデンボンバーの歌広場淳さんにツイッターで短歌をほめられたことがあります。