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アロンソ・カーノ 絵画作品集 Alonso Cano

1601-1667 | スペイン | バロック17世紀スペインで活躍したグラナダ出身の画家兼彫刻家。当時のスペインを席巻した自然主義的な表現に彫刻を感じさせる古典主義的な(保守的)アプローチによる人体など造形の描写

更新日: 2016年09月27日

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アロンソ・カーノ Alonso Cano
1601-1667 | スペイン | バロック
17世紀スペインで活躍したグラナダ出身の画家兼彫刻家。当時のスペインを席巻した自然主義的な表現に彫刻を感じさせる古典主義的な(保守的)アプローチによる人体など造形の描写、フランドル絵画やイタリア絵画などの明瞭な色彩、洗練された空間構成を取り入れ独自の様式を確立。巨匠ディエゴ・ベラスケス、フランシスコ・デ・スルバランらと共にひとつの時代を築いた。1601年クラナダで祭壇制作にも携わる彫刻家ミゲル・カーノの下に生まれる。1614年セビーリャへ移住しフランシスコ・パチェーコに師事、先輩弟子であるベラスケスと交友をもつようになる。また彫刻では作品へ色濃く影響が残るマルティネス・モンタニェースに学んだと考えられる。同地で確固たる地位を確立すると、1638年、24年間過ごしたセビーリャからマドリッドへ招かれて移る。マドリッドでは宰相オリバレス侯爵付の画家兼私室取次係として従事し、その後、王室美術コレクションの管理や火災で破損した絵画の修復作業に携わる。この時、イタリア絵画の柔らかい質感による描写やフランドル絵画の明瞭な色彩を研究。1644年、妻殺害の犯人として告発されるも無罪で釈放、しかしこの事件に失望により1年間バレンシアへと逃れたとされている。1657年から1660年まで一時的にマドリッドに戻るも、1652年からは故郷グラナダで絵画や彫刻を制作。同地で没。

アロンソ・カーノ作『スペイン国王』。本作はアルカサール(旧王宮)の黄金の広間を飾るためにフェリペ4世が複数の画家に命じ、制作させた歴代スペイン国王の連作肖像画の中の一枚であるが、この連作群には各国王の記銘がなく、本作がどの時代の何という国王であるかは不明である。本連作群は資料が乏しく、制作年代も断定はできないが、おそらく1638年から24年間過ごしたセビーリャからマドリッドへ招かれて移り住んだ数年間(1640-1645年頃)に描かれたと推測されている。

本作の左手に世界の支配や政体を象徴する地球儀を、右手に権力と武力を象徴する剣を手にする端正で凛々しく、雄雄しい国王は、前方から玉座に鎮座する姿を短縮法を用い描いており、その姿は観る者と対峙するかのようである。また暗中に対し、明瞭な色彩と光彩描写によって浮き出るかのような衣服や体形状の表現は、王の存在をより強調するだけでなく、王として築き上げてきた国の歴史の重質感をも表現しているかのようである。

アロンソ・カーノの代表的な作品のひとつ『聖母子』。聖母マリアの頭上に輝く印象的な明星から≪明星の聖母≫とも呼ばれる、マドリッド滞在時代に制作された本作は聖母マリアが幼子イエスを抱くという典型的な≪謙譲の聖母子≫を主題に描かれた聖母子像作品で、自然主義的な深い明暗対比の中に、古典主義を感じさせる柔らかな質感による保守的な人物の描写や穏やかで慈愛と微かな憂いを帯びた表情が大きな特徴である。幼子イエスを抱く聖母マリアは、気品に満ちた慈愛の瞳で我が子を見つめるも、その表情の奥には微かに、将来イエスが歩む苦難の道を憂うかのような複雑な感情も示される

幼子イエスの聖母マリアに身を委ね穏やかな表情を浮かべる描写は、同時期でのアロンソ・カーノの様式が最も反映された代表作品として知られている。また、聖母マリアの背後に白々と輝く明星は静謐な空間の中をより一層引き立てるのみならず、観る者により詩情的な印象を与えることに成功している。

アロンソ・カーノの代表作『聖イシドロと井戸の奇蹟』。画家が1638年から移り住んだマドリッドの地で手がけられた本作は、1070年に生まれたとされる文盲ながら信仰深いマドリッド近郊の貧農夫、聖イシドロ(聖イシドロス)が起こした奇蹟の話のひとつ、井戸で溺れ死にかけていた子供を救った逸話≪聖イシドロと井戸の奇蹟≫を主題に描かれた作品で、アロンソ・カーノの堅固な質量感に富んだ彫刻的な人物造形描写の中に、同地で触れ学んだイタリア絵画の柔らかい質感による描写やフランドル絵画からの影響が示されているのが大きな特徴である。

また本主題の登場人物が示す清貧の描写が自然主義的な観点から捉え描かれている点や、画面全体を包む独特の雰囲気に兄弟子ベラスケスの影響が示される点なども注目に値する。聖イシドロはマドリッドとその近辺のイエスズ会や、ティロル地方の農村などで厚い信仰を受けた聖人で、農民や小作人の守護聖人として知られている。

アロンソ・カーノの傑作『天使に支えられるキリスト』。制作の意図や目的、依頼主などの詳細は不明であるが、エンセナーダ侯爵のコレクションからカルロス三世が購入し、マドリッド王宮の王の寝室へ続く廊下や特別礼拝堂などに飾られていたことが判明している本作は、自らユダヤの王を名乗り民を惑わせたとして、ユダヤの大司祭カイアファや民衆らから告発を受け、ゴルゴタの丘で磔刑に処され死した受難者イエスと、イエスの亡骸を支える天使を描いた作品で、おそらく16世紀に残された素描から制作された版画(又は素描そのもの)から構図を拝借していると考えられている。

。本作で最も注目すべき点は、暗中に浮かび上がる受難者イエスの亡骸の、白々と生気を感じさせないながらも神々しい輝きを帯びる肉体描写と、それを支える天使の深い感情描写によって表現される、静謐さと劇的な展開が混合される場面展開や、観る者に感じさせる独特の甘美性である。またイエスの死した肉体の質感描写や絶妙な色彩の変化などに兄弟子ベラスケスの影響が一部の研究者から指摘されている。なおプラド美術館には同サイズ、同主題による別ヴァージョンの作品が所蔵されている。

アロンソ・カーノ後期の代表作『キリストとサマリアの女』。旧約・新約聖書から八場面の逸話を描いた連作のひとつである本作はヨハネ福音書4:1-30に記される、ユダヤの民と敵対していたサマリアのシカル町の井戸でイエスは疲れを癒す為に水汲みの女に水を求めると、サマリアの水汲み女は敵対する者から声をかけられたことに驚き戸惑うも、イエスとの会話で女の過去を指摘したことなどで、次第にイエスを信じ始め、「救世主が来ると聞いている」と問うと、「それはあなたと語っている私だ」とイエスが答えたとされる逸話≪キリストとサマリアの女≫

イタリア絵画の柔質的な描写と、闊達な筆使い、深みのある豊かで自在な色彩は、画家後期の作品の中でも、特に優れたものとして知られている。なお、この連作群は1810年の独立戦争時のフランス軍侵攻による美術品略取で、スペインから持ち去られ、本作『キリストとサマリアの女』と、スコットランドのポロック・ハウス(スターリング・マクスウェル・コレクション)が所蔵する『アダムとイブ』以外は、現在も行方が知れない。

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