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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2014/12/30(火) 17:54:31.18 ID:jbnGtj2L0

 元提督「(戦いが終わって、三年――)」

 元提督「(深海棲艦は全滅し、同型艦の居た艦娘たちは自分だけの顔を手に入れ)」

 元提督「(社会へと――解き放たれた――)」


 元提督「(俺は知り合いを通じて海軍のバックヤードに職を見つけ)」

 元提督「(戦時中の物資の処理を担当している)」

 元提督「(来る日も来る日も――木箱のラベルを見て――倉庫のあちこちに置く――)」

 元提督「(ひたすら見ては運び――見ては運び――見ては運び――)」

 元提督「(アパートに帰り、惣菜で飯を済まし、寝る……)」


 元提督「(不意に、虚しさを覚えることもあった)」

 元提督「(あの頃は、周りに艦娘たちが居た――)」

 元提督「(鎮守府には――皆の明るい話し声と笑い声が満ち満ちて――)」


 元提督「(何度、その感情を振り払ったことだろう)」

 元提督「(ようやく彼女たちは戦いから解き放たれたんだ。ようやく、平和になったんだ)」

 元提督「(彼女たちが生と死の戦いを続けていた頃を懐かしむなど言語道断だと――)」

 元提督「(そう、今も、自分に言い聞かせ続けているのかもしれない――」


 元提督「(これで、いいんだ。これで――)」







2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2014/12/30(火) 17:57:26.13 ID:jbnGtj2L0


 元提督「(帰りに買った雑誌を開いたら金剛が記事に載っていて、驚いたりもしたっけ)」

 元提督「(勿論戦時中とは顔が変わっている。しかし、俺は新しい顔も知っている)」

 元提督「(海軍病院から出てすぐ、アパートに押し掛けて来たのだ)」

 元提督「(チャイムに応じてドアを開けた途端、見知らぬ女性が抱きついてきたから肝を潰したが――)」

 元提督「(話を聞けば、自分は金剛だと言うではないか)」

 元提督「(わざわざ住所を聞いてきたらしい。彼女らしいや、と感じた)」

 元提督「(しかし何より、嬉しかった。わざわざ訪ねてきてくれたことが)」

 元提督「(最初は一週間に一回は訪ねてきたっけ。時々、他の艦娘も連れてきてくれることもあった)」

 元提督「(もしかしたら、本当に彼女は、俺とずっと一緒に居てくれるのかもしれない、とも思った)」


 元提督「(しかし――金剛の訪ねてくる回数は、次第に少なくなっていった)」


 ?「当然のことだろう。彼女もまた、兵器でなく、社会の一員となったのだ」

 ?「忌まわしき時代のことを想起させるような人物と交際を続けると思うか?」


 元提督「誰だお前は……?俺の何を知ってるって言うんだ、金剛の何を知ってるって言うんだ」

 ?「愚問だな」

 提督「俺はお前だよ。お前の善の心」

 元提督「善の……心……」

 提督「お前はまだ金剛を縛り付けるのか?」

 提督「あんなにお前のことを慕ってくれた金剛の幸せを、何故素直に祈ってやれない?」

 元提督「違う……俺は……俺は……」

 提督「じゃあ何故笑顔が出ない?」

 提督「お前はまだあの鎮守府に帰りたいと願っているのか?」

 提督「いいか、彼女はようやく幸せになれたんだ、いいじゃないか、これで」

 元提督「…………そうだ……いいんだ……」

 元提督「これで……いいんだ……」

3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2014/12/30(火) 18:10:20.55 ID:jbnGtj2L0


 元提督「鈴谷に出くわした時もあったな」

 提督「ああ、そうだ。電車の中だったな」

 元提督「すぐにわかった。あの、髪を中指と薬指でかきあげる癖……取れてなかったな」

 元提督「俺だってそう艦娘と接触することばかり望んでたわけじゃないぞ」

 元提督「普通の少女のように制服を着て携帯をいじる鈴谷の姿」

 元提督「ちら、と見るだけで……満足だったさ」


 提督「よく言う。お前は何かを求めていた」


 元提督「……は?お、おい、俺が何をしたって言うんだ」

 提督「中年が鈴谷の尻に伸ばした手を掴んで、取っ組み合いになった後だよ」

 元提督「…………」

 提督「お前はホームで中年もろとも駅員に取り押さえられた時、鈴谷を見た」

 提督「ずっとだ。ずっと、見ていた。明らかにお前は求めていた」

 元提督「……何を、だ……俺はただ、無事かどうか……」


 提督「鎮守府で見た、鈴谷の、手刀を切って謝意を示す仕草」

 提督「お前はそれを見たいがため、中年を阻んだんだろう」

 元提督「…………」




4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2014/12/30(火) 18:10:52.93 ID:jbnGtj2L0


 提督「ああ、何も反応を示してはくれなかったな。邪念が叶わなくてよかった」

 提督「明らかに中年にも気づいていたし、お前にも気づいていた」

 提督「けれど気味の悪い虫を見るような目をくれて、それっきりだ」

 提督「お前はその喧嘩騒ぎで一気に降格されたんだよな」

 元提督「……俺は……」

 提督「黙れよ。これ以上何を求めようとしたんだ?」


 提督「世間知らずの少女たちを戦場に送り出しておいて」

 提督「やっと戦いが終わったのに、お前はまだ何かを求めるのか!」


 元提督「…………そんな……ことは……」

 元提督「…………」

 提督「……お前はもう幸せを味わっただろう。あの鎮守府での日々を思い出せ」

 元提督「…………」

 提督「これ以上求めるんじゃない。もういいじゃないか、終わったんだよ、全部」

 元提督「…………そうだ……いいんだ、これで…………いいんだ……」




7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2014/12/30(火) 18:34:56.10 ID:LrYNOTtUo

海軍士官なんて超絶エリートがここまで落ちるもんかね



9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2014/12/31(水) 16:36:09.32 ID:Y9ma/ANWo

なんで痴漢捕まえて降格されるの



11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2014/12/31(水) 19:08:30.78 ID:y2XSxFtZ0

>>9 中年の痴漢行為の証拠がないので、ただの喧嘩として処理されました

続きを投下します

12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2014/12/31(水) 19:09:56.83 ID:y2XSxFtZ0


 提督「加賀の様子だってわかったじゃないか」

 元提督「……あ、ああ。夫になるって人が、わざわざ挨拶しに……」

 提督「全く幸せ者だよお前は」

 提督「途中で戦死しても、善良な艦娘たちの中で一生分の幸せは味わっていただろうに」

 提督「生き残り、あまつさえちゃんと彼女が幸せになったことを確かめられるとはね」

 元提督「……いい人だったな……」

 提督「ああ。加賀は幸せになれるだろうな」


 提督「問題は赤城だ。海の底から、どんな思いで見てるかなぁ、え?」

 元提督「……っ……」

 提督「お前は彼女を殺したんだぞ?いいか、死に追いやったんじゃなく、殺したんだ!」

 提督「ケッ、睡眠不足なぞ、采配ミスの言い訳にもならない」

 提督「作戦が成功したおかげで有耶無耶になって良かったな、え?」

 元提督「…………」

 提督「まぁ最も、加賀の夫は、最後に来たときはこう言ってたけどな」

 提督「『妻にもう会わないように言われたので』」

 元提督「…………」

 提督「お前には恩を返すようなことはできないんだよ」

 提督「だけど、彼女たちはお前への貸しは忘れてくれるだろうさ」

 提督「赤城はどうだかな……フン」

 提督「お前はひたすら慎ましやかに生きればいいんだ。不満か?」

 元提督「……いいさ…………これで…いいんだ」




13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2014/12/31(水) 19:10:30.25 ID:y2XSxFtZ0


 提督「それをお前は……まったく、大変なことをやらかしたもんだよな」

 提督「今すぐ叩き切ってやりたいが……軍刀が汚れるなぁ?え?」

 元提督「…………」

 元提督「……教えてくれ、俺は……」


 元提督「……俺は……朝潮を、本当に……殺して、しまったんだろうか……」


 提督「ヘン、夢でだか現でだか知らないが……」

 提督「お前、唯一忘れないでいてくれた朝潮に動物的な感情を爆発させる光景を見たんだろう?」

 提督「行方不明になってるんじゃ、現での出来事じゃないのか」

 提督「バラバラにでもして、捨てたんじゃないのか、え?」

 元提督「…………わからない……何も……」


 提督「……お前は信じがたいほどのクズ野郎だな……」

 提督「じゃあ言ってやる。やったんだ、お前は」


 元提督「…………」

 提督「お前は鎮守府が解体されて、幸せを取り上げられることに我慢ならなかったんだよ」

 提督「で、ようやく甘やかしてくれた朝潮が遠くに転校すると知って……」

 提督「絞め殺した上『とんでもないこと』をしたんだ」

 提督「ようやく過ちに気がついたお前が、妥協を自分に納得させるために作り出したのが俺だ」

 提督「どうだわかったか?満足か?疑うのなら、そこの押入れを見てみろ。ノコギリが入ってるぞ」

 提督「朝潮の血でベトベトの、な」

 元提督「…………」

14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2014/12/31(水) 19:11:06.03 ID:y2XSxFtZ0


 ゴトゴト バサッ


 提督「おい何やってる?紐を編んで内職でもするつもりか?」

 提督「お前が何をやったところで、何も変わらないし、何もなかったことにならない……」


 ヒュルッ バサッ グルグル ギュッ


 提督「…………まさかお前……」


 提督「逃げるのか」

 提督「全てから……」

 提督「本当にお前はクズ野郎だな」


 元提督「いいんだ、これで。これでいい」グッグッ

 提督「…………」


 プアオ プアオ プアオ プアオ


 提督「……ほら、サイレンの音が聞こえてきただろう」

 提督「あれがここに来るまで待てば、多少償えるかもしれんぞ」


 元提督「無理だ。これでいいんだ、俺なんて」ギュッ ゴトリ

 元提督「俺が居なくなった方が、ずっと、恩返しができる」

 元提督「ほんの僅かだけどな」


 提督「……妥協したか……訂正する。やっぱりお前は、俺じゃない」


 元提督「……ククククッ。いや、お前は俺さ」

 元提督「お前が妥協し、妥協し、妥協することで俺になるんだから……」

 元提督「同じレールの前後でしかないんだよ、どんなに状況が違かろうと、矛盾はない」

 元提督「これが……必然。そう、これで……いいんだ……」

 元提督「これで、いいんだ」


 ドタッ


 ギイ・・・ ギイ・・・

15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2014/12/31(水) 19:11:50.96 ID:y2XSxFtZ0


 某所


 女「……テレビテレビ、っと」

 ピッ

 テレビ『横須賀少女バラバラ殺人事件に関する速報が入ってきました』

 女「(これ、最近騒いでるやつじゃん)」

 テレビ『警察の発表によると、警察が自宅に踏み込む直前に容疑者の男性は首吊り自殺を図り……』

 テレビ『病院に搬送されましたが、その後、死亡が確認されたということです』

 女「……ん?」


 テロップとともに画面に映し出された、容疑者の顔写真。

 女はどこかで見たことがある気がしたが、思い出せないでいるうちに、CMへと切り替わった。


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hng714さん