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この記事は私がまとめました

momo_greenさん

■■■一言でいうと
運に見放されたさえない男が
めちゃくちゃかわいい風俗嬢に恋をする話

***主な登場人物***

●遼太郎  不運な29才 

●カヨ   デリヘル嬢

〈光友=SNSの仲間〉
●光友・晋作 
●光友・サラダ
●他4人
 ※光友達はコミュ障な遼太郎の
  唯一の話し相手として
  遼太郎の妄想(?)で時々出てきますが
  後半からは現実になります。

●ミツオ      カヨの元彼氏
●ウエルカム金融  住吉

交差点の角

人々が行きかう交差点の角

風俗チラシでうめつくされた街灯の陰に
挙動不審な男がいた。

赤い横縞ポロシャツ クロップドパンツ 
リュックを背負っている。

尋常じゃない様子で、
突発的に飛び出たり戻ったりしていたが
意を決し 
目の前の自動証明写真機の中に飛び込んだ。

カーテンを閉めると
汗だくで震えながら リュックから水筒を取り出し
水分摂取で緊張をやわらげた。

コインを投入して撮影をスタートする。

一回目の撮影 緊張しすぎで凶悪な顔つきになった。

撮り直し
二回目は、こわばった笑顔

撮り直し
三回目は、タイミングが合わず 顔が隠れて
四回目は、くしゃみをして頭上しか写らなかった。

『 ぼくの名前は奥遼太郎 
  29才 童貞 ニート経験 当然あり 
  パニックになると過呼吸にもなる
  現在 どうにか実家を出て蒲田で一人暮らし
  薄給の契約社員 』


現像があがって写真を見ながら歩き出すと
アイスクリームを持ったチャラいカップルと
衝突してしまった。

写真とアイスクリームが地面に落ちた。

凍り付くチャラカップル
地べたに転がる遼太郎

「ユッコのキャラメルクッキーバニラが
NOバニラになってしもた」

胸の谷間丸見えのチャラ女が言った。

日焼け刺青のチャラ男も残念そうに
「行列 けっこう並んだのにな」

チャラ女「ヤックン 割り込んでいたけどね 
・・・ってがっ!
このメンズ! チチ 見てねっ!?」

立ち上がった遼太郎はうつむいたまま首を振った。
「・・・み 見てません」

チャラ男が
「Hi マーン!」
遼太郎に接近した。

「おまえ 童貞だろ?」

「ちっ ちっ ちっ」

チャラ女はこれ見よがしに胸の谷間をよせた。
「見てたんだろ? チチ」

無意識に見てしまうと
「やっぱ 見てるぅ!」と。

落ちた証明写真を手に持ったチャラ男
「なー おまえ
こんな写真じゃ さすがに受かるバイトねぇぞ」

「べべべつに バイトを探しているわけじゃない」
遼太郎はひったくって取り戻した。


チャラ男が同情して涙目で遼太郎を見た。 
「おまえ 何が楽しくて生きてんだ?」

そしてサングラスをかけ
「とりあえず 行列に並ぼうぜ」と
遼太郎の肩に手を回し強引に連れて行こうとした。

パニックになった遼太郎は突然 過呼吸おこした。
生き絶え絶えにへたり込むと
チャラカップルは驚いて逃げて行った。


通行人が行き交う中
もがき苦しみながら
もといた風俗チラシの街灯の下に這って行き
リュックからビニール袋を取り出して
口にあてて呼吸を繰り返した。

『 大きく分けると 人は二種類にいるって思う。
〔ついているヤツ〕 と 〔いないヤツ〕 

少し前に流行ったふうに言うなら 
〔持っているヤツ〕 と 〔いないヤツ〕』

警察署

警察署の“免許更新受付”に駆け込んだ遼太郎。

しかし間に合わなかった。

入口には
”本日の受付は終了しました” の掲示が。

『 もちろん 絶対 後者だ。
証明写真を撮るだけで緊張するような男 』


雨が降って来た。

遼太郎は警察署の入り口に立ち
リュックから常備傘を取り出そうとした。
が、なかった。 
傘はあの風俗チラシの街灯の下に落ちていた。

「あああぁ・・・」
すべて 運が悪い 絶望に打ちのめされた。

その時 
リュックに風俗のチラシが紛れているのを見つけた。

かわいい女の子がにっこり微笑んでいる。


遼太郎のSNS画面
(この部分は回想・妄想入り乱れています)

遼太郎の書き込み
:変わりたい:

「もちろん ずっと ずっとそう思っている」

(妄想)【光友(SNS仲間)の声】
変わりたい
変わりたい

「けど もちろん こんなかわいい子が」

【光友の声】
風俗にいるわけないっしょ
ツリだよ、ツリ 決まってんだろ

「わかってる」

遼太郎の書き込み
:ぜんぜん余裕でわかってる:

「これだってフォトショップ様様か!」

【光友の声】
どっかのタレント写真 無断で使ってんでしょ

遼太郎書き込み
:だけど・・・:

『 変わりたい 』

傘をさした光友(この部分妄想)6人が
遼太郎の前に立って問いかける

本気?

「オレ・・・変わりたい」

雨に濡れながらチラシの番号に電話をした。

『 それで ぼくは デリヘルに電話したんだ 
  警察署の目の前で 』

ラブホテル

ラブホテルの薄暗い廊下

白いサンダル 白いレースのショートパンツ。
(映像は下半身だけ)
デリヘル嬢が近づいてくる。

ドアにへばりついて待つ遼太郎

ノックでドアを開けた。

そこには

   超度級美女が立っていた。

「初めまして 万華鏡クラブ から来ました カヨ です」

おののく遼太郎


『 いた! いた! いたーーーーーーーっ   
  天使が いた!  そう思った 』

遼太郎の派遣先

二階建て作業所
OA機器や段ボール箱などが雑然と置いてある。

遼太郎はパソコンを修理していた。

彼の額にはかわいいバンドエイドが貼ってあった。
遼太郎は手でなぞって昨夜のことを思い返した。


= ラブホテルでの回想 =

「今 入りました。はい、60分です」

カヨ嬢は事務所に電話連絡してから

「シャワーをお借りしてもよろしいですか?」

と遼太郎に聞いた。

「しゃしゃわ? しゃわ しゃわしゃわ? どぞ」

「じゃ」
カヨが背を向けて服をたくし上げると
うしろの遼太郎があわてて背を向けた。

「あ」

振り返りカヨが笑顔で聞いた

「ご一緒なさいますか?」

「ぼく?  ごい ごい ごい」

退いた拍子に ぶら下がった提灯が
勢いよく額にぶつかった。

そして過呼吸をおこした。

荒い息でリュックの中をかきまわしたが
ビニール袋はなかった。

カヨが手早くゴミ箱の袋をはがして
遼太郎にの口にあてた。
そして「大丈夫ですよ」と言いながら
やさしく彼を膝の上に寝かせた。

提灯の灯りとカヨのやさしい微笑み。


■明け方
二人は無人の歩道橋で向かい合っていた。

カヨは勢いよく頭を下げた。
「今日は ごめんなさい! なにもできなくて」

「そ、そ、そんなぁ」

「なのに わたし、お金をいただいちゃって」

「当然ですよ 呼んだの こっちなんですから
こここっちこそ こんな時間までつきあわせちゃって」

「今日はもう 終わりでしたから」

「め、迷惑かけてすみませんっ!!!」

「あ そうだ 
よかったらこれもらっていただけませんか」

頭を下げ続ける遼太郎に 両手で名刺を差し出した。

カヨ「もし・・・」

「もし・・・?」

「次があったら」

「あったら?」

カヨが名刺を裏返すと
スタンプカードになっていた

「今日のぶんまで サービス しますから」

「さ、 service」

「よかったら」

遼太郎の胸ポケットに名刺を差し込み

「じゃあ 遼太郎さん また」

と去って行った。

後ろ姿を見送りながら遼太郎は舞い上がった。

『 今 名前 呼ばれた? オレ 名前呼ばれた? 
  三次元のリアル女の子に?
  初めてのっ さ、”さん付け” で? Pardon!?
  ろ、録音しとけばよかったぜぇ!』

手すりの柵に崩れ落ちる。

定食屋

変わりたい
変わりたい
変わりたい

定食屋で昼食をとる遼太郎。

両隣には(妄想)【光友6人】が
座って食事をしていた。

光友
変われないヤツがよく言うよね。
バカじゃないの?

『 そんなこと言ったって 』

なんだよっ
惚れてるんじゃないの? 

『 うん 』


ラブホテルで
遼太郎の額にやさしくバンドエイドを貼ってくた
デリヘル嬢カヨ


『 あの時点でもう惚れてた 』

だったら決まってんだろうが やることは

『 ど、どうすればいいの? 』

おまえバカか
もう一回 彼女に会う
以外に あるかよ


現実には定食屋で一人で食べている。

橋の上で再予約

誰もいない赤い欄干の橋の上 
遼太郎はカヨの名刺を見ながら電話をした。

「あ あの ぼ ぼ ぼぼぼぼぼ   く」

愛想のいい中年男の声
「あぁ 夕べ 何度も切ったお客さん?」

「す すいませんでした 緊張してて」

「いーんです いーんですぅ
めずらしいことじゃありませんからぁ
初めは誰でもそうですよぉ
で、どうでした? 昨日の子は。いいコでしたでしょ?
当店のナンバーワンですからねぇ
お客さん、チョーラッキーでしたよ
彼女 めったにキャンセルなんてでないんですからぁ

あ で、今日はどういった?

もしかして 今日も カヨ ご指名ですか?」

「は はい」

「きたなー!
でもあいにく今日はだめなんですよ カヨ
一日予約がうまってまして」

『 予約・・・一日中 うまってる? 』

「明日の20時以降なら 今ならあいてますよ」

『 彼女が風俗嬢であることを思い知った瞬間だった 』

悲痛な感情が遼太郎を襲った。

「どうなさいますか?」

会いたい気持ちが勝り
「お お願いします!!」
と深々頭を下げた。

それから何度も利用し
スタンプカードに”済スタンプ”が6個ついた頃

遼太郎はATMで利用明細の残高を見ていた。

「20万 きってしまった」

いつものラブホテル

無言のまま
ベッドに座る遼太郎と、ソファに座るカヨ。
二人の距離は数メートル。

遼太郎がカヨを見る。
カヨが見ると さっと視線をはずす。

いたずら心でカヨが
同じタイミングで視線を合わせた。

どぎまぎした遼太郎は
あわてて水筒の水を飲みに立った。

カヨ「遼太郎さんって 変わってますよね」

「そ そ そですか?」

「だって ほら 今日も何もしてこないですし」

カヨが遼太郎にぐんぐん近寄った。
遼太郎はさささっと後退して

「ぼくはカヨさんと話しているだけで
じゅうぶん楽しいですから」

「あぁ でも そんなに ”話もしてないよ” 」

     !!!

『 ”タメ語!” 初めてのタメ語にグッときた!!
  だからぼく 思い切って使ってみた』

反対方向を向いたままどさっとベッドに座り
勢いよくカヨを指さして

「そ そうだねっ!!」

ふふふっ 
カヨは笑いながら遼太郎の面前で膝を折り

「それ 今日もかえましょうね
・・・ああ ”かえようか”」

”タメ語”に言い直して 
バンドエイドを額からはがした。

カヨ「もう必要ないみたい」

遼太郎はあわててベッドに上がり
飾りのミラーで傷を確かめた。

完治!

がっかり・・・

カヨが背を向けベッドに腰かけた

「こうして何もしないで普通にいるほうが
逆に なんか恥ずかしいですね
なんか 服着てるのに裸みたい
・・・”普通”って言うのもなんか変か」

遼太郎の方を向いた。

遼太郎もカヨを見た。

遼太郎
「いやぁ うん でも 
・・・普通って・・・難しいから」

カヨ「だね」

座りなおして二人が向き合った瞬間

ピィ ピィ ピィ ピィ・・・

タイマーが鳴った。

『 1時間で2万弱 
  カヨさんにはお金を使わないと会えない
  そのことを自覚する瞬間だ 
  そして金は  いずれ尽きる 』

遼太郎がカヨに料金を差し出した。
しかしカヨは拒否した。

「もらえないよ」

「でも お店に払わなきゃいけないでしょっ」

「それはそうだけど」

渡そうとする遼太郎 戻し返すカヨ
離れたまま攻防を続けたが
遼太郎がカヨのバックに押し込んでさっと離れた。

携帯を持ったままカヨが遼太郎に近づいた。

「よかったら交換しない? 連絡先」

予想しない展開に「えぇぇぇっ!!!???」

「だって これ以上 お金使わせるのわるいから」

『 あっていいのかオレの人生にこんなことが! 』

「話をするのは別に
居酒屋でもファミレスでもできるでしょ
他にも 
別にカラオケでもドックカフェでもいいでしょ」

「もうわかった でもオレ 犬飼ってないから」

「わたしも飼ってない    それにぃ」

「それに?」

「わたしも 友達 ほとんど いないんだ」

「ぼくなんかほとんどなんか 一人もいないよ」

カヨが遼太郎の隣に座った。

微笑んで
「じゃあ ほとんど いっしょだね」


『 キレイだなぁって思ったけど 』

カヨがお国訛りでポツンと言った。
「東京って 独りには きつい街だよねぇ」

『 カヨさんの笑顔はなぜか泣いているみたいに見えた 』



二人は連絡先を交換した。

いつもの歩道橋で別れる二人

カヨが叫ぶ。
「じゃぁ 今度は外でぇ」

「うんっ! 外でぇ!」

大喜びで夜を駆ける遼太郎

『 29年間生きてきて女の子と話したことなんて
  ましてや触れたことなんて
  フォークダンス以来ほぼないこのオレが
  二人の妹たちにはバイキン扱いされてるこのオレが
  最高二か月 誰とも口をきかずに
  過ごしたことがあるこのオレが
  女の子と二人で会うんだぜ
  二次元じゃないぜ
  カヨさんと会うんだぜ
  それも”ただ”なんだぜ
  消費者金融 行かずに済んだぜ

  すげー!人生ってすげーっ!もしかしてこれまでの不幸は
  今日までの前振りかい!
  ひょっとして神様っているのかーっ 』

漫画喫茶に行きついた遼太郎

『 だけど こみ上げるうれしさと同じくらい
  異様で泣きたくなるような不安が
  ぬたりとしのびこんでくる予感があったんだ。
  手に入れてさえいないものを失うような
  その正体がなんなのかこの時は まだ
  はっきりとはわからなかったけど
  とにかく
  この気持ちを誰かに言いたかった
  たとえ 会ったこともなければ顔を見たこともない
  光社会の誰かでも』

遼太郎がSNSに書き込んだ。

:俺の人生にいいことがっ 
 29才にして初めていいことがっ
 すげーよ
 誰でもいいから聞いてくれよ:

現実の【光友・晋作】
いいこと?
なんすか! ソレなんすか!?


夜景を見下ろすタワーマンションの一室で
数台のモニターを並べて株の上下を見ながら
”歴史先輩”こと 遼太郎 にレスをする光友・晋作

光友・晋作「歴史先輩 あなたに幸あれ」

初めての待ち合わせ

『 この三日後 初めて外で待ち合わせをした
  だけど 日の光は ぼくにはまぶしすぎた 』

すでに来ているカヨに声をかけられず
木の陰で悶絶する遼太郎

カヨが気づいて声をかけた。

「遼太郎さん」

近づくと逃げる遼太郎
二人は木の周りをぐるぐる回った。

「どうしたの?」

「店に着くまで離れて歩いたほうが いいと思う」

「そんなの気にしなくていいと思う」

カヨは遼太郎の手をつかんで歩き出した。


『 そして ぼくは初めて女の子とお酒を飲んだ 』


■居酒屋
ビールで・・・

「かかか」

カヨ「乾杯」

一口飲んで 

「何食べようかなぁ」

メニューを見るカヨに、遼太郎が話しかけた。

「そそうだ カヨさん 知ってる?
おしぼりって む無理すると けっこう絞れる」

「なんで無理すんの?」

遼太郎は絞って見せた。

「わたしもやろうかなぁ」


サワーで・・・

「そうだ カヨさん 知ってる?
大根はおろすと大根おろしって言うけど
山芋はなんで”とろろ”になるんでしょーか」

「え? えー なんでだろう?」

「Let's thinking!」

「なんでぇ?」

「知らない」

「知らないんかい」


焼酎水割りで・・・

「そこでオレはワイフにこう言ったんだ」

「なんてなんて?」

「タウンページは黄色だってな」

「ふぁはっはっは おもしろい」


『 酒すげー まじ すげー 』


「ところでカヨさん 彼氏いるの?」

「え ナニ 急に」

『 そんな重大なことも、
  聞いてから
  聞いたことに気づいたくらいだった 』

「だから いるの?」

「いないよ そんなの」

「え ま ま マジで」

「いるわけないじゃん こんな仕事しててさ」


二人は心地よく酔っ払い
ボトルキープをすることにした。

カヨがボトルネックを隠しながら名前を書き込む。
「見ないでね。見たでしょ 今」

「見てない」

「見ないでね ほんとに」


『 人生初キープだった 』


じゃーん

”りょうたろう & かよ”

『 オレ 今 ラッキー池田以上に ラッキーだっ! 』


別な日、
ショッピングする二人

洋服屋でカヨが帽子を遼太郎にかぶせる。

「似合ってるよ」

『 オレにハット オレの人生にハットなんて
  一生 縁がないものと思っていた 』

カヨが前髪を整えてあげた。
「うん ばっちり!」


いつもの居酒屋へ

「カヨさん
ぼく ひどく言葉 出ないときあるでしょ?
気になるでしょ?」

「わたしは 遼太郎さんと話してると 落ち着くよ
言葉がゆっくりなぶん
”あぁ この人が言っていることはほんとうなんだな”
というか 実感できる  とにかく 信頼できる」

「そんなこと 初めて言われた」

「でも ほんとだよ!」

「”オレ”も カヨさんのこと信頼できる」

カヨが笑った。
「いや ”オレ”とか言うんだな と思って」

「だめかなぁ」

「ううん むしろいいよ 
でも どうして?
わたしのこと 信頼できるって」

「あの時 思ったんだ」

初対面で過呼吸になった時に
やさしく介抱してくれたこと。

「東京にもこんなやさしいコがいるんだな って」

「おおげさ」

「でも ほんとだよ」

「ありがと」


『 吃音のこと 打ち明けられたことで 
  苦手だった電話も平気になった どころか 
  長電話の楽しさを初めて知った
  電話でしか話せないことがあるってことを
  それから
  ついさっき会っていたのに
  またすぐに声を聴きたくなるって気持ちも

  ・・・だけど 肝心なことは

  ”どうして風俗で働いているの?”
  とは聞けなかった
  いや 聞きたくなかったのかもしれない
  とにかく 恋だった
  まぎれもなくぼくは カヨさんに恋をしていた 』


ベランダで電話をする遼太郎

夜が明けて朝になった。

カヨ《もうさすがに切らなきゃね》

「そうだ! カヨさん 今日の夜 会えないかな」

《ごめーん 仕事》

「仕事じゃ しかたないね」

《またね》

電話を切った直後 
急に遼太郎は吐き気をもよおし、台所で吐いた。

『 カヨさんのことを好きになればなるほど
  いとおしく思えば思うほど
  あの指で あの唇で
  毎日 いったい 何人の男に
  どんなことをしているんだろう
  そんな ドブみたいに汚い 最低な妄想が 
  止まらなくなったんだ
  
  ぼくは 海の厳しさを知らない淡水魚だった

  そして

  この日を最後に カヨさんからの連絡が途絶えた 』

カヨの部屋

暗い室内 
遼太郎からのコールが鳴る。
携帯は置きっぱなしのまま。


『 何があったんだ 何があったんだよ 
  カヨさん 』

機械音声が流れる。
タダ今、電話ニ出ラレナイトコロニイルカ・・・

『 着信拒否をされていないことが
  せめてもの救いだった 』


不安でヘロヘロになりながら 仕事から戻り
カヨが働いている”万華鏡クラブ”のHPを見る。

『 風俗嬢だってこと以外に
  ぼくはカヨさんのことを何も知らなかった 』

店に電話をかけると

いつもの受付の男
「これまでドタキャンなんて
一回もしたことがなかったんですがねぇ
逃げちゃったのかなぁ」

『 逃げる・・・ 』

「でも安心してくださいお客さん
かならず 見つけ出しますから」

『 見つけ出す・・・ 

  風俗嬢と客 

  二人の間に それ以上のものはなかった
  連絡しても彼女が答えてくれなければ 
  それでおしまい
  そんな点線みたいな か細い関係だったってこと
  今さら自覚した 』


玄関のチャイムが鳴った。
ピザを数人分注文したのだ。

「おまたせしました ピザーラです」

遼太郎は訪問客がいるように装うため

”うるさめバージョン”の効果音を
ネットから拾ってかけ

玄関に靴を数人分並べて
ハットをかぶり ドアを開けた。

イケてる人気者を演じる。

「ちぃーっす すいません いっつも うるさくて」

配達女子
「・・・そうですか たいへんですね いつも」

細かい演技で奥に声をかける。
「ちょっと ”オマエラ” うるさいよー」


配達女子は事務的な態度で
支払いが済むとドアを閉めた。

遼太郎が靴を下駄箱に戻している最中
配達女子が急に戻って来てドアを開けた。

情けない遼太郎の姿にイラつく。

「クーポンを渡し忘れちゃって 
・・・てが 
それなんなの? いつもいつも 
見栄? ”オマエラ” って誰だよ
一人で二つ食うのかよ
育ち盛りかよ
ま いいんだけどさ 赤の他人だし
けど今日 あたし 虫のいどころ悪くてさ
そんなの見栄にもなっていなから
どうせはるなら 意地はれよ」


たちすくむ遼太郎


「ほんとだ なにやってんだろ」


『 失恋は地獄だってこと 初めて知った
  海水は思ってた以上にきつかった 』


■カヨの部屋
カヨはおびえていた。

玄関ドアを開けようとする男が
ドアノブをガタガタさせる。

男の声
「いるんだろ?カヨ な 頼むよカヨ
聞いてんのかっ 幸子(カヨ)!
人がやさしくしてりゃ調子にのって
いるのわかってるってつってんだろ!」

怒鳴り声を遮断するため ヘッドフォンをつけ
憔悴したまま眠りにつく。

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