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「斜陽」あらすじ解説【太宰治】

「本物の華族はあんな言葉遣いはしない」と志賀直哉や三島由紀夫に批判されました。ということはつまり、志賀も三島も「斜陽」の凄さを感じていたということです。全容の解明はおそらくできていなかったと思われますが。

更新日: 2018年10月21日

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この記事は私がまとめました

「斜陽」の発表は1947年。終戦が1945年ですから2年後、日本はまだGHQの占領下にありました。占領が解かれるのは5年後の1952年です。

他国占領下の文学ですから、直接書けないことも多々あります。しかしそのような状態でこそ、作家の表現能力が最高度に発揮される、ということもあるのです。

書かなければならないことがあるならば、どんな手段を使っても書かなければなりません。

5層構造

「名作」と呼ばれる作品の多くは、重層的な構造を持っています。
「斜陽」は5層あります。

1、華族の没落小説
2、キリスト教小説
3、日本神話小説
4、経済小説
5、政治小説

内容大変入り組んでいます。普通に読むだけでは普通に理解不能です。ゆっくり掘り下げて読み解いてみましょう

1、華族の没落小説

あらすじVer.1

「お嬢様が貧乏になったあげく、不倫で妊娠します。
不倫相手には捨てられますが、子供といっしょに前向きに生きてゆこうとします(終)」



ひたすら暗い話です。上品な世界から一方的に汚辱にまみれてゆく話です。終戦直後の悲惨な社会で悲惨な描写が共感を誘ったのでしょう、たいそう売れたそうです。

文章はすばらしいです。太宰治最大の強みは、女性言葉でソフトに書けるところです。土佐日記以降、女性言葉のウェイトが極端に高いのが日本文学の特徴ですから

たとえば第六章
***
外へ出て、こがらしに吹かれ、戦闘、開始、恋する、すき、こがれる、本当に恋する、本当にすき、本当にこがれる、恋いしいのだから仕様が無い、すきなのだから仕様が無い、こがれているのだから仕様が無い、あの奥さまはたしかに珍らしくいいお方、あのお嬢さんもお綺麗だ、けれども私は、神の審判の台に立たされたって、少しも自分をやましいとは思わぬ、人間は、恋と革命のために生れて来たのだ、神も罰し給うはずが無い、私はみじんも悪くない、本当にすきなのだから大威張り、あのひとに一目お逢いするまで、二晩でも三晩でも野宿しても、必ず。
***

女性が冬の風に吹かれながら、自分に言い聞かせながら足早に歩いてゆくのを、ハイスピードに一気に表現しています。これは「文豪」になればなるほど書けなくなる文章なんですが、太宰は書けるのです。道行(みちゆき)の文章として歴代有数の出来です。

あらすじVer.2

もう少し詳しく説明します

「華族の若い女性(主人公「かず子」)が、敗戦によって経済的に困窮します。

兵隊に行っていた弟が帰ってきますが、遊んでばかりで役に立ちません。

母は病気になって、一時持ち直しますが、結局死にます。

さびしくて子供が欲しくて弟の師匠の作家の押しかけ愛人になろうとします。ベッドインします。

しかし同じ日に弟は自殺してしまいました。

その上作家からは結局捨てられるのですが、妊娠に気づき、生まれてくる子と力強く生きてゆこうと考えます(終)」

8章の構成

全体は8章構成になっています

表を真ん中で改行してみました。

四章構成の物語が若干変容して2回繰り返されています

この反復構成ですが、実は「走れメロス」と同じです。
メロスでも同じ構成が2回繰り返されています。

「走れメロス」あらすじ解説 【太宰治】
https://matome.naver.jp/odai/2153201492722164101

「走れメロス」は、単純な友情物語ではありません。
古いシラクス王(つまり衰弱した太陽)にとってかわり、
メロスが新しい太陽王になってゆく物語です。

「斜陽」も読んで字のごとく、太陽の物語です。
そして「メロス」と同じ構成を持っています。

となると主人公の「かず子」は、メロスのように太陽になろうとする存在、
古い太陽のシラクス王に該当するのが、かず子の母ですね

実際衰弱した母は病床で言います。

「まぶしいのが、いやなの。これからずっとお座敷の灯はつけないでね」

真っ暗の中で寝ることを希望するのです。太陽の消えかかる瞬間ですから。

しかし母の死後、妊娠した主人公かず子は、
「私生児と母、太陽のように生きる」と宣言します。
新しい太陽の誕生です。


悲惨な境遇を描いているように見えて、実は太陽の蘇生の物語なのです

あらすじVer.3

第一章(母の病気)

華族の「かず子」は気品のある母と二人暮らし。父は10年前に死去、弟の直治は徴兵に取られたっきり帰ってこない。かず子本人は一度結婚したが離婚した出戻り。
終戦で屋敷を売り払い、伊豆に引越し小さな家に二人で住んでいる。

第二章(かず子と男性)

屋敷ではボヤ騒ぎを起こして近所に迷惑をかける。しかし近所の人と親しむことができて、いっしょに畑仕事が出来るようになる。

華族といっても戦時徴用はあった。立川の山奥でヨウトマケ(土木作業)をした。若い将校に親切にしたもらった。ほかに戦争中の思い出はない。

母は日に日に弱る。弟の直治が生きているらしい。

第三章(直治の手記)

弟は心配していた麻薬中毒もなく帰ってきた。

彼のノート「夕顔日記」を盗み読みすると、麻薬中毒中の苦しさが描かれている。

私も弟の借金返済に困って、弟の師匠上原を尋ねたことがあった。上原は麻薬から酒に転換する戦術を教えてくれて、不意に私にキスをした。
そんなこんなで、私の結婚は破綻した。

第四章(かず子から上原へのラブレター)

1、相談がある。M.C.という人が恋しい。M.C.に打診して欲しい。M.C.(マイチエホフ)

2、ずるい手紙を見破られた。返事はもらえなかったが、私にも縁談がある。60過ぎたお爺ちゃん。子供が欲しいから断った。あなたの子供が欲しい

3、返事がもらえなかった。ならば直治が東京に出張している際に伊豆にきてください。はばむ道徳を押しのけられませんか?、M.C.(マイチャイルド)

第五章(母の死)

手紙に結局返事はなかった。失恋だ。それならばと上京支度を始めていると、母の具合が悪くなった。医者に見せると心配ないと言う。しかし夢で和服の男性から、「お母様はもう墓の下」と言われる。

看病のつれづれに、直治の経済学の本を読む。社会主義のレーニンなどだ。昔友人から薦められていたが、その時は結局読まなかった。今はわかる。人間は革命と恋のために生まれてきたのだ。

10月、母の手が浮腫み、肺結核が診断された。やがて母は死んだ

第六章(かず子と上原)

戦闘開始。こうなれば直接押しかける。東京に出てゆき、上原宅を探していると鼻緒が切れた。こまってい偶然たどり着いた家が上原宅だった。奥様が鼻緒を直して、上原の行く場所を教えてくれた。奥様に申し訳ないが、恋を貫徹したい。

最終的に西荻のチドリという飲み屋で上原一行に出会えた。同席の知人たちは、ギロチンギロチンなどと歌いながら酒を飲み、大金を浪費している。狂っているが、それでしか生きられないのだろう。

上原に送られて知人宅に泊めてもらい、結局結ばれた。幸福だった。上原が「もう遅いなあ、黄昏だ」と言い、私は「朝ですわ」と答えた。その日、弟の直治は自殺していた。

第七章(直治の遺書)

先に行く。なぜ生きなければいけないかわからない。軍隊で入手した楽に死ねる薬がある。

貴族だったからジェラシーを受けた。苦しかった。遊んでも楽しくなかった。

ただ秘めた恋があった。ある画家の奥さんに恋をしていた。彼女の名前はスガちゃん。夜が明ける、さようなら。

第八章(かず子から上原への手紙)

私は捨てられたようです。でも妊娠できているようです。

戦争や平和や貿易や組合がなんのために存在しているかご存知ですか?それは女が子供を生むためです。だから戦いには勝ちました。これから私生児と母、太陽のように生きます。

最後にお願いがあります。生まれた子を奥さんに一度抱かせて、「これは直治がある女の人に生ませた子です」といいたいのです。なぜだからわからないがそうしたいのです。捨てられた女の最後の嫌がらせです。M.C.(マイコメディアン) (終)

第七章で直治は、「遠まわしに、ぼんやりと、フィクションみたいに教えて置きます」と宣言した上で「付き合ってきた画家は俗物だった、その奥さんが好きだった」と告白します。
このつきあってきた画家というのは、もちろん画家ではなく、作家の上原のことです。

想定できうる事態は、
「直治は上原から、姉のかず子から三度ラブレターをもらったことを聞かされていた。だから遠まわしの表現で、上原はろくでもないと諌めようとした」というものです。表面的にはこれで意味が通ります。

しかし同時に、「この作品は、遠まわしに、ぼんやりと、フィクションみたいに」書かれていることを暗示していると見るべきです。つまり「重層的な小説ですよ」と解説しているのです。重層的な小説は、たいていこういう表現が物語の中に入れ込まれています。定番の読者サーヴィスとも言えます。

驚異の小説構成

さきほど八章構成のうち、前半四章と後半四章が対応していると説明しました。

ところで各章の内部は三分割できます。ですから前半12節、後半12節ある計算です。そして内容はそれぞれ前半と後半で対応しています。図をクリックしてご覧ください。

12セクションと12セクションの対応関係、これは驚くべき小説技法の充実です。「走れメロス」の技法がさらにブラッシュアップされています。

対句系物語の究極形態

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